「なんだよそれ。つーかなんだその顔、不満出すぎだろ。」
大好きなヒーロー映画の新作が公開したと、幼なじみがさそってくれた。二人で映画を見た日は決まって夕御飯を食べるが、幼なじみはいつも私をお好み焼き屋さんへ連れて行きたがるのだ。
「じゃあ店変えればいいんだろ?」
「…違いがわかる気がしないから、そういう問題じゃないと思う。」
「じゃあやめるか?」
そう聞く癖に、顔は残念そうにするのだからずるい。いつも私は、てっちゃんの喜ぶ顔が見たくて、しょうがないなあとつきあってあげてしまうのだ。
「明太もちチーズが食べたいな。」
「あー、あったかな…。無くても他の旨いから、文句言うなよ。」
「文句なんて言ったことないもん。」
小突いたところで知らぬ顔をするこの幼なじみに、私もワガママを沢山聞いてもらっているから、これぐらいは許しても良いけれど。
素直に聞くのはなんだか悔しいから、こうして小さな抵抗をするのだ。
てっちゃんもそれを分かってるから構わずどんどん突き進んで行ってしまう。
持ちつ持たれつ。私達はお互いにワガママを聞いている。
「ほら、ここだよ、こないだ言ってた旨いとこ。」
「…《かげうら》…?」
連れてこられたお店の暖簾には、なんだか近頃よく聞く名前が書いてあり、まさか…なんて思っていたら店の扉からお客さんと店員さんが出てきた。
「マー坊、勉強さぼんじゃねえぞ!」
「親父さんにぶっ飛ばされんなよ!」
「うるせえ!さっさと帰れ酔っぱらい!」
笑いながらふらふらと帰っていくお客さん達に、転けんじゃねーぞ!と大きな声で注意したその店員さんの後ろ姿はやっぱり私の知ってる彼にそっくりで、もし本当にそうなら刺さってしまうのに、思わず凝視してしまった。
そしてやっぱり、店員さんは首の後ろを抑えてものすごい勢いで振り向いた。(首がとれちゃうんじゃないかとおもった…)
「…あ?」
「よう、カゲ。」
食いに来たぜと彼に声をかけた幼なじみを今度は凝視してしまい、呼ばれた店員さんは私とてっちゃんをみて首をかしげていた。
「当真くんといいてっちゃんといい…男の子ずるい…!!」
「は?何言ってんだ太陽。」
「…お前ら付き合ってたのか?」
「付き合ってないよ!!幼なじみだよ!!カゲこんにちは!!」
「…お、おう。」
「勢い出しすぎだわカゲ引いてんじゃねえか。」
がおーと聞こえそうなくらい大きな声を出した私の頭をべしっと叩いたてっちゃんは、そのまま暖簾をくぐって先に中へ行ってしまった。
慌てて私も後を追おうとすれば、思わずと言った風に吹き出す声が聞こえて思わず振り向いた。
「(…わ…笑ってる…!)」
「わりぃ、お前しっかりしてる風に見えて、やっぱちょっと抜けてんだな。」
漫才みてえだった、と笑うカゲを思わず凝視してしまったら、少しして首を抑えたカゲに額を小突かれてしまった。
「あー…、もう見んのやめろ。荒船の奴多分もう勝手に席ついてんだろうから、早くお前も入れ。」
扉に手をかけ中へ促すカゲに甘えて店内へ踏み込めば、ソースの焼ける鉄板の香りがふわっと広がった。
いつもお好み焼き屋さんだけど、今日のはてっちゃんに感謝しよう。
今度からお好み焼き屋さんは此処へ連れてきてもらおうと思いながら、メニューを広げる幼なじみの向かいに座った。
◆ ◇ ◆
「え、何だお前ら同じクラスなのか。」
「うん。しかもほとんど同時期入隊。」
「へえ、道理で仲良さそうなわけだ。」
てっちゃんの焼いたお好み焼きを頬張りながら、クラス発表の日を思い出す。
嬉しかったなあなんて思い出していたら口角が上がってしまって、てっちゃんに変な顔と笑われてしまった。
「ほら、明太もちチーズ。」
「!カゲ、ありがとう。」
「お、良いところに。カゲ、これ太陽の好物だから焼いてやれよ。」
「え!?」
「…お前が焼けばいいだろ。」
俺はいつも焼いてやってる。とふんぞり返るてっちゃんの脛を思いっきり蹴ってやりたい。いつもヘラ握って離さないくせに!
「い、いやいやいいよカゲ!てっちゃんの言うことなんか気にしないで!私自分で焼けるし…」
「…ヘラよこせ。」
てっちゃんからヘラを受け取ったカゲは、私の手からタネを取ると、手際よく焼き始めてしまった。無茶ぶりをした当人はトイレ、と一言言って席をたった。なんてやつだ…。
嬉しいやら申し訳ないやら…。てっちゃんの無茶ぶりに、他のお客さんもいて仕事もあるだろうカゲに申し訳なくなりながら、見慣れない姿にちょっとドキドキしてしまう。
意外とキレイな手してるなあ、なんてぼーっと見ていたら、お好み焼きに向いていた金色と視線がぶつかった。
「見すぎ。」
お客さんが沢山居るなかで、やけにその声と色だけ鮮明で、お好み焼きが焼ける音も、帰ってきたてっちゃんの声も、全部が耳を素通りしてしまって。
「火傷すんなよ、太陽。」
頭をわしゃっと撫でてから離れて言ったカゲにお礼も言えず。
旨い、なんて言いながら黙々とその明太もちチーズを食べる幼なじみで我に返った私は、美味しいね、なんて相づちを打ちながら、頭のなかは大慌てだった。
人は恋をしても、案外冷静を装えるらしい。