友達として、あくまで友達として好きなんだって言い続けて、私はもしかしたら本当に友達としてのカゲが好きなのかもなんて思い始めていたりもする。
カゲが防衛任務で居ない日は、自分の席で本を読んだり、静かにしていることがほとんどだ。
カゲが居れば気が向いたときに話しかけるし、お昼休みになれば食堂でゾエさんや柚宇ちゃん達ボーダーの友達と合流してご飯を食べたりしているから、クラスの子達と話す機会はあんまりない。
カゲと私が話ているときに向く視線がなんだか嫌で、私はクラスの子達が少し苦手になっているからだ。
クラスの子達が心配そうに私に声をかけて来たとき、ちょっぴり嫌な予感がしていたのは、その視線がカゲと私が話をしているときと同じものだったから。
「芳乃さん、大丈夫?」
「何が?」
「芳乃さん、いつも影浦くんと一緒にいるじゃない?その、何か脅されてたりでもしてるのかと思って…」
だからそんな風に見ていたんだね。
「あいつ何考えてるかわかんねえもんな。芳乃さん、弱味でも握られてんの?」
そんなことないよ、カゲは素直で、優しいんだよ。
「あんなやつと一緒にいねぇ方が良いよ。」
どうして?
「カゲのこと、何も分かろうとしてない癖に、知ったように言わないで。
何も知ろうとしないで只悪く言う貴方達より、カゲの方がずっと良い人だよ。」
するすると勝手に出てきた言葉に驚いて、相手の顔も見ずに廊下へ出た。休み時間はもうすぐ終わりだから、廊下には人が少なくて、教室から飛び出てきた私は目立つらしく視線を集めた。
廊下にいた人達の視線でさえも、カゲじゃないのに刺さるように感じて、歩いていたはずが少しずつスピードがあがって、いつの間にか廊下を駆けていた。
◆ ◇ ◆
どこに向かってるんだ私…と思ったのは駆け出してからわりと直ぐだった。
とっくに予礼は鳴っていたから、もう授業は始まってる。
授業をサボるなんて、てっちゃんにバレたら怒られちゃうなと思いながらも、教室にはどうしても戻りたくなかった。
食堂に通じる外廊下には、この時間生徒は一人もいなかった。いつも皆と合流する校舎の入り口も、当真くんと穂刈くんがよく鬼ごっこをする中庭も、いつもお昼に飲み物を買う自販機の前も誰もいない。
少し一人になりたくて、自販機の隣に腰を下ろして立てた膝に顔を埋めた。
「珍しいなあ優等生、サボりか?」
「…当真くん、ちゃんと授業受けなよ。」
「そっくりそのままお前に返すわ。」
声をかけてきた当真くんは、ここに居ちゃいけないはずなのに呑気にケラケラ笑いながら、私の隣に腰をおろした。
そういえばゾエさんが、当真くんはよく授業を抜け出してるんだって、てっちゃんに密告してたなあなんて思い出してちょっと可笑しくなり、膝から顔を上げた。
「カゲの事でキレたって?あの芳乃さんがー!って話題になってんぜ。」
「あのってなに?」
「そりゃあ優しくて美人な癒し系女子の芳乃さんに決まってんだろ?」
「なにそれ。」
まるで弾が命中したときのようにどや顔をしながら当真くんが言うもんだから、思わず笑えば、やっと笑ったなと言いながらほっぺたを摘ままれた。
「いひゃい。」
「お前は馬鹿みたいに真面目なのが良いところであって、悪いところでもあるんだよ。」
ぱっと離されたほっぺたを擦りながら当真くんを見上げた。
「普段弱音も文句も吐かずに頑張ってんだから、たまには感情で動いたって、誰もなんも言わねえよ。」
…って匿名希望さんからな、と笑った当真くんに鼻の奥がツンとした。
自惚れかもしれないけれど、私が落ち込んでいるときにそんな言葉をくれる人を知ってる。がおーなんて当真くんがやってるから、もうほぼ答えを言ってるみたいなものだ。
「…当真くんじゃないの?」
笑いながらふざけて言ってみれば、当真くんは自販機にお金をいれながら答えてくれた。
「まあ、似たようなことは思っちゃいる。けど、お前手貸されんのあんま好きじゃなさそうだし。
もし本当に駄目なことがあって、カゲにも荒船にも頼れねえなんてときは手貸してやるよ。」
私の膝に自販機から取り出したミルクティーを置いた当真くんは、ヒラヒラと手を降りながらどこかにいってしまった。
引き留めて授業受けさせなきゃなのにな、なんて思ったけど、もらったミルクティーが甘くて温かくて、そんなきもちが失せてしまった。
「!メッセージ?」
携帯を開くと一件入っていたメッセージの相手は、さっきまで此処にいた当真くんで、「サボるなら屋上で寝転ぶが吉!自販機の取り出し口を見よ〜」と言葉通りに取り出し口に手を突っ込んだ。
「こんな鍵どこで手にいれたの…」
呆れながらもつい笑ってしまって、もらったミルクティーと鍵をしっかり握りしめ、屋上に移動した。
◆ ◇ ◆
屋上にはベンチが置かれ、ちょうど日向になったそこは風邪が気持ちよくて、つい横になったら眠気が襲ってきたのはどうやらもう4時間も前の事らしい。
「…授業もお昼も終わった…」
絶対怒られるやつだ…と絶句していたら、バサリと何かが落ちた音がした。
ベンチの下へと落ちたそれは学ランで、一体だれが?ということと同時に、寝顔を見られた、という恥ずかしさで顔が少し熱くなった。
携帯を確認すれば、心配をしてくれたのか柚宇ちゃんや倫ちゃんから着信やメッセージがあって、誰かさんが密告したのか他校のてっちゃんや犬飼くんからもメッセージが来ていた。(てっちゃんのはプレビューでも恐ろしかったから開いてないのはご愛嬌にしてほしい。)
「カゲ?」
防衛任務終わった、学校行く。というメッセージの後、風邪ひくぞ馬鹿。と短い文章。
「…え、…え!?」
影浦隊の今日の防衛任務は午前と聞いていたから、12時頃に来たこのメッセージは間違いではないけれど、午前の防衛任務の後はそのまま本部に要るのがほとんどなはずだ。
ドキドキしながら考えていたら、当真くんからも新しいメッセージが来ている事に気がついた。
王子様が心配して見に行ったみたいだぜ、お姫様。
と、写真が一枚。開いてみると、無造作な黒髪がワイシャツ一枚で穂刈くんとじゃれあってる写真で、いつもの学ランは見あたらない。秋も半ばの今日、日陰はすこし肌寒いから、これは…
考えるより先に!とカゲに電話を掛ければ、3コール目で出てくれた。
「カゲ!?ごめん!学ランカゲのだよね!?私すごい寝てて気づかなくて…あ、変な顔してなかった?ヨダレ出てなかったよね!ってそうじゃなくて…」
『…まだ屋上いんのか?』
「え、あ、ううん、今下に降りてるとこ…」
『カバン持ってっから、そのまま昇降口来い。学ラン落とすなよ。』
「わ、分かった!」
『じゃ、』
「わっ、待ってカゲ!」
ぎゅっと学ランを握りしめ、ドキドキ鳴る心臓と多分真っ赤な顔はそのまま、顔が見えないし、視線も刺さらないから、存分に気持ちを向けられる。きっと目の前にいたら、私の感情はいつもの倍ぐらいカゲに刺さってるんじゃないかと思うぐらい、頭の中はカゲの事でいっぱいだった。
「ありがとう。」
『…早く来い。』
先行っちまうぞ、と切れた電話をしっかりポケットに入れて、昇降口まで駆け出した。早く会って、声が聞きたくて、走る前からドキドキしている心臓はすごく苦しくて、恋は病なんていった人に、手放しで拍手を送りたくなる気分だった。