「じゃ、二人とも書けたら俺のとこまで持ってこいよ。」

そう言って開発室へ向かった隊長の背中を見送って、当真くんと二人顔を見合わせた。
死ぬかもしれないから遺書を書け、なんて…

「実感湧かないにも程があるよね…」
「だなぁ。」

私達冬島隊の初遠征は、五日後だ。



◆ ◇ ◆



合同訓練に向かった当真くんを見送って、私は個人ランク戦ブースに足を運んだ。つい先日入隊試験があったこともあり、ブース周りはC級隊員で賑わっていた。
そのほとんどの視線が、ある画面に集中していることに気が付いて見上げれば、見慣れた黒髪が見知らぬ隊員と戦っていることに気が付いた。

「C級…?」
「おう、太陽。当真は一緒じゃねえのか?」
「スナイパーの合同訓練に行ったよ。穂刈君たちもでしょ?」
「そういや言ってたな。」

声をかけてくれた幼馴染によって行けば、同じテーブルにはA級が3人集まっていることに気が付いた。

「あれ!太陽ちゃんがいるー。」
「犬飼くんこんにちは。」
「芳乃さん、お疲れ様です。」
「…」
「、こら、菊地原!」
「あはは、大丈夫だよ。歌川くんも菊地原くんもこんにちは。」

珍しいメンバーだね、と笑えば、隣のテーブルに座っている犬飼君も笑いながらうなずいた。

「荒船と一緒にモニター見てたらちょうど2人が通りがかってさ、つい呼び止めちゃった。」
「芳乃さん、もう見ました?影浦さんのとこ。」
「ついさっき来たばっかだから少しだけど、見たよ。すごいね、あのC級の子。ラウンジにいる人たちみんなあのモニター見てるし。」
「向こうで二宮さんとか加古さんも見てたよ。ザキさんの顔が心なしか青かったから、見て見ぬふりしてきちゃった。」
「え、柿崎さん大丈夫なんですかそれ…」
「…めんどくさいことになってるみたいだから、行かなくて正解だったんじゃない?」
「あ、そっかきくっちー聞こえるのか、便利だねえ。」
「でも、カゲがC級とやるなんてほんと珍しいよね。」

あの子どうやって頼んだんだろう?と首をかしげていたら、自慢げな顔をした幼馴染がにやりと笑った。

「あいつ、俺の弟子なんだよ。」
「!?、え、てっちゃん弟子とったの?いつの間に…」

驚いた私の顔をみて、てっちゃんはとても楽しそうに笑った。
モニターにもう一度目を向ければ、同じく楽しそうに笑うカゲの姿が見えた。

「…何かあったのか、太陽。」
「え?…ううん、何でもない。」

カゲ、楽しそうだねと笑ったが、幼馴染は腑に落ちない顔をしている。多分、私に何か思うことがあることなんて、彼にはお見通し何だろうけど、自分でもよくわからないから、もやもやした心に見て見ぬふりをして、隣で盛り上がる犬飼君たちに混ざった。



◆ ◇ ◆



「お、カゲお帰り〜」
「…んでテメェがいんだクソ犬。」

どっか行け、と嫌そうに言うカゲにニコニコ笑いながら話しかける犬飼くんは相変わらずものすごい精神力だなあなんてぼんやり思いながら見ていたら、カゲの後ろからC級の子が顔を出した。

「鋼、どうだった?」
「…強いな、影浦は。休憩を挟んでも、1本とるのがギリギリだった。」
「ったりめーだ!そうカンタンに獲らせるかよ!」
「って言いつつちょっと危ないの何本かあったよね。」
「ああ!?」

笑いながら言った犬飼くんをすごい形相で振り返ったカゲが見慣れていないのか、慌てるC級の子にじゃれてるだけだから大丈夫と教えてあげた。

「じゃれてる…?」
「鋼、こいつ芳乃太陽。俺たちと同い年でA級冬島隊の銃撃手だ。」
「よろしくね、てっちゃんとは幼馴染なの。」
「村上鋼だ。よろしく、芳乃さん。」
「…太陽。」

なあに?カゲ、と笑って振り向いたが、カゲはなんだか不満そうな顔をしていた。
なにかしたっけ?と首を傾げて見てみたが、何を言われるでもなく、ただ睨むように見つめられた。

「え、何、カゲ嫉妬?ナニそのかおっ!?」
「ちげえよ黙ってろクソ犬。」
「わっ、カゲ、犬飼くん死んじゃう、首しまってる!」
「…太陽、喉乾いたっつってたろ。カゲと一緒に行って来いよ。」
「え?いや、私は…」
「…行くぞ。」

てっちゃんの言葉に心当たりなんてなく、何を言ってるんだろうと首を横に振ろうとするが、いつの間にか犬飼くんから離れたカゲに腕をとられてしまってそれは叶わなかった。

「カ…カゲ?」
「…」

ロビーで買えばいいものを、一言も声を出さないままどんどん進むカゲの背中を見つめた。

「(…手、あったかい。)」

握られた手に気づいたら、意識がどんどん集中してしまって、みるみるうちに顔が熱くなっていった。感情が、カゲに向かってあふれて行っている。

「(やっぱり好きだなあ。)」

いつもだったら、刺すなよって振り向くのに、どんどん前へ進んでいくカゲに私の感情はどんな風に刺さっているんだろう。
いつも好きだと思っているから、大丈夫だと思っていたけど、本当はばれていたら。
今ここで、好きですって言ったら。

「(どんな反応するんだろう。)」

言ってしまった後が怖くて、隣に立てなくなるのが怖くて、言葉にすることはできなかった。
私の手を握る力が、少しだけ強くなった気がしたのも、きっと気のせいなんだろう。

残念ながらベタぼれ