馬鹿でも夢を見させてください



朝が好き。コーヒーを飲みながら朝ごはんを食べれば頭がスッキリして、今日も1日頑張ろうと思えるからだ。
ティファニーのショーウィンドーを眺めながら朝食をとるホリー・ゴライトリーのように、私は別にひとりぼっちってわけではないけれど。でも週に一度、あの映画館でとるコーヒーと朝ごはんは、私をまるで物語の登場人物になった気分にさせてくれる。

「千潤、こっち!」
「よっちゃんおはよう。」

まあここは大学のラウンジだし、今は朝じゃなくて昼なんだけども。
スモークピンクのチュールスカートにバルーンスリーブがかわいい白のトップスを着た私の親友様は今日もかわいい。

「金曜日、映画行ったんでしょ?どうだった、エマ・ワトソン。」
「いやもうめちゃくちゃ最高。何もかもが美しすぎて超泣いた。」
「…だと思ったわ。」
「あとイケメンだった…。」
「は?野獣が?」
「違うの、私は若きマイケル・J・フォックスがタイプなのに、スターリングラードのジュード・ロウみたいなイケメンに不覚にもときめいちゃったのよ…いやあ、イケメンはやっぱりイケメンだったわ。」
「は?なにそれ、どういうこと?」
「イケメンにハンカチもらったってこと。」
「!?詳しく!!ねえなにそれ詳しく!!」

あんたの浮わついた話とか久しぶりじゃない!と、びっくりするほどテンションの上がったよしこにまあ座りなさいと着席を促した。

「最近よく金曜日の朝一の上映に来る子でね、こないだ初めて同じ列の一個席開けた隣に座れたの。わー眼福って思ってたら予告始まって隣に居ることなんてすっかり忘れて、本編でまあいつも通り泣きまして、ハンカチ忘れて涙ふけないから、エンドロール終わりもなかなか立ち上がれなくてさ、困ってたらハンカチ貸してくれたの。イケメンだった。」
「うわ…なにその少女漫画みたいな展開…。しかも子ってなに、年下?」
「一回制服で来てるとこ見たから間違いないわ…しかも六頴館。多分三年の自由登校期間とかそんなん。」
「ほうほう。」
「なんか顔がイケメンだからどうせ性格はそうでもないのよとか思ってたらそんなことなかった…性格もイケメンだった…。あんな完璧人間現実にいるのね…。」
「なるほど、あんたがそんだけイケメンって言うってことは相当なイケメンなんでしょうけどね、見なさい千潤。」

食堂の入り口に目を向けると、アイドル同級生が丁度入ってきた所で、食堂の女子の視線を一人占めしている。隣は私もよくお世話になる、我らがザキさんこと柿崎くんだ。

「完璧人間ならあそこにもいるわ。」
「知らないのよっちゃん、嵐山は人間じゃなくて天使なんだって明美ちゃんがいってたよ。」
「千潤!旭さん!奇遇だな、隣いいか?」
「ごめんよっちゃん、天使じゃなくて天然の間違いだった。」
「おはよう嵐山、柿崎。あんた達がこんなところで声をかけてくれたお陰で私達は食堂中の嵐山クラスタのターゲットよ。」
「すまん、旭、千潤…。」



◆ ◇ ◆



「六頴館ならボーダーの提携校だから後輩が何人かいるよ。名前聞いてやろうか?」
「柿崎くん天才…、君はなんでそんなに優しいのに彼女いないの…?」
「優しいのに彼女が出来ない男柿崎…大丈夫、きっといい人いるよ…。」
「誉めてんだかけなしてんだか分からん絡みやめろ。」
「安心しろ千潤、旭。柿崎には照屋が居るからな。」
「あー、例のお嬢様学校に通う男前JK。」
「私前お兄から写真見せてもらったんだけどさ、結構可愛かった。」
「もうほんとやめろお前ら…!千潤名前聞いてやんねえぞ!」

ほら、どんなやつか教えろと急かされ、からかうのはやめにして特徴を伝えていく。

「うーん、目鼻立ちはわりとはっきりしてて、猛禽類って感じの目付きがかっこいい。キャップ被ってること多くて、髪は茶色がかった短髪。毎週映画館で合うような映画好きで、スパイ映画とかアクションに定評があるやつとかだとよくパンフレット買ってるのみるなー。」
「…毎週映画館に通う映画好き…?」
「茶色がかった短髪でキャップが多い…?」
「荒船やん。」
「ブッ!?」
「うわ!洸太郎きったな!!ちょっと、何通りすぎ様に吹き出してんの!?」
「生駒、ぬるっと出てきたね。」
「諏訪さんと太刀川さんと飯食っとった。旭ちゃん今日のそのスカートごっつかわええわ、似合うとるな。」

テーブルの端からひょっこり顔を出した生駒くんは相変わらず素直に女の子を誉める男前だ。丁度私の後ろにいたらしいお兄、もとい洸太郎とは大違い。この男は髪を切っても何も言ってくれないのだ。

「ちょ、待て、なんでお前荒船探してんだ!かっこいいってなんだ!」
「ハンカチ貸してくれたイケメンだから。洗って金曜日返すの。何、洸太郎も知り合いなの?」
「荒船はボーダーなんだよ、諏訪さんと同じB級の隊長やってるんだ。」
「何それ…ますますイケメン…。」
「おい、ポッとすんなやめろ…!俺は嫌だからな!妹さんと付き合ってますとか荒船が挨拶しに来るとこ想像するだけで鳥肌だわ!」
「ちょっと、まだ付き合ってないしそもそも付き合うかも分かんないんだからやめてよ!」
「お前のタイプだろうから警戒してんだよ!」
「マジ!?ちょっとその辺くわしく!!」
「食いついてんじゃねえよ!!」

ギャーギャーと騒ぐ私と洸太郎を見て、よしこがため息をついた。

「あんた見た目はいいんだから、もっとおしとやかにしなさいよもったいない。」

男選び放題でしょう?と呆れるよしこに首を横に振った。

「大勢よりも一人がいいじゃない。ちゃんと私を見てくれる一人に会えればいいの。だから私は私を隠したくない。」

にこにこと笑う私にまたよしこはため息をついた。外面より内面。呆れながらも私の面倒を見てくれるこの親友や、賑やかな友人達が私は大好きなんだけれど、恥ずかしいから口にすることはないだろう。