烏有に帰す


五つになった頃、家が鬼に襲われた。
最後に見た父は、突然やってきたそれに腹を貫かれ、「逃げろ」と掠れた声で叫ぶ姿だった。
母は私の手をひっつかみ、居間へ飛び入ると、箪笥にしまったマッチに火をつけ、家を燃やすと告げた。

「菫、母は様子を見て来ます。ここに居れば安全だから、一歩も出ないように。母が来るまで、何があっても開けてはなりません。
この香り袋を持っていなさい。」

香り袋を私の手に握らせた母は、私を物置へ押しやった。わけも分からず頷いた私を確認し、ふわりと頭を撫でた母は微笑みながら扉を閉めた。物置の中は暗くてじめじめしていて五つの私には怖いもので。ぎゅっと目をつむり、いつの間にか眠っていた。
物置の外で屋敷がゴウゴウと燃え、みるみるうちに崩れて行ったことを知らない私は、朝が来るまで目を覚ます事はなく、母は私を迎えに来ることはなかった。