三体の鬼を前に、炭治郎は焦りを覚えていた。
一体を妹の禰豆子に任せたものの、己一人で二体を相手にするには骨が折れる。比喩ではなく、本当に骨が折れるやもしれぬ。
とはいえ今この場で鬼を殺せるのは自分のみ、大丈夫、俺ならやれる!と炭治郎は心に言い聞かせ、師から学んだ技を放った。
「(しまった、一体逃した…!!)」
ねじれ渦から逃れた鬼が背後から迫る匂いにもう一度と刀を構えたその時だった。
「ーー禽(トリ)の呼吸・壱ノ型 “炎々夜鷹(エンエンヨダカ)”」
鬼の頭上から炎が一閃、真っ直ぐに、その体を貫いたのだ。
◆ ◇ ◆
菫が町に到着したのは夜がふけてからだった。前の任務地から少し離れた場所のためである。遅くなってしまった、これでは情報収集はできないが…夜になったのなら鬼が向こうから出てくるだろうと屋根に上り、辺りを見回した。
菫は夜目がきく。もともと視力が抜群に良いこともあり、夜の鬼探しに困ることはなかった。そしてこの目があるからこそ、彼女の呼吸は活きる。
「(…、いた!)禽の呼吸・漆ノ型 “静寂梟(シジマフクロウ)”」
音を立てず、流れるように屋根から屋根へと跳び移る。鬼と対峙する少女の髪飾りがはっきりと見えた辺りで、菫は音もなく屋根を蹴り、大きく跳躍した。
「禽の呼吸・弐ノ型 “隼風(シュンプウ)”」
「ガッ!!?なっ…」
近くに伸びた電線を踏み台に、鬼へと目にもとまらぬ速さで近づいた菫の刃は的確に鬼の頸を切り落とした。鬼がしっかりと消滅した事を確認した菫は、対峙していた少女と、彼女に守られていた男女の安否を確認するため振り向いた。
「!貴女、まさか鬼…」
鬼殺隊ではないと思ったが、なんて事だ。まさか先程私が切った鬼にこの男女を喰われまいと…?
刀に手をかけ、警戒を続けていると、くるりと彼女が振り返り、男女の方へ駆け出した。
「、しまっ…??」
喰われる、と思った。鬼は人を喰らう。鬼殺の常識だ。菫は御師様から当たり前のようにそう教わって来た、家族も鬼に食われた。そんな鬼から人々を守るために刃を振るっている。しかしなんだこれは?菫の頭では理解が追い付かなかった。
「頭を…撫でてるの…?」
鬼の少女はあろうことか、庇った男女の頭を優しく撫で始めたのだ。
「貴女は一体…!!」
突如大きな音を立て、地面が弾け飛んだ。
「むー!」
「今のはまさか…鬼殺の隊士が戦ってるの?」
「む!」
大きく少女が頷く。戦っている隊士がいるということだ。その隊士なら、彼女の事を知っているかもしれない。
「…待っていて、直ぐに終わらせる。」
タタンと軽やかに屋根へと登った菫は、先程弾けた地面に向け、技を放った。
「ーー禽の呼吸・壱ノ型 “炎々夜鷹”」
真っ直ぐ一直線に地面へと吸い込まれる。そしてそのまま彼女の剣は真っ直ぐに、鬼を真っ二つに切り裂いた。