「(しっかりしなさい菫、善逸と伊之助が知らないなら、もうあとは柱合裁判に乗り込むしか方法はない。)」
かと言って、今から向かった所で裁判は終わってしまっているだろう。炭治郎に有罪判決が出てしまっていたら、菫は無駄足になるだけじゃなく有罪のものを庇ったと、罪を問われかねない。
「(そうなったら、お師様まで罪を問われてしまうわ。もしくは、私の首を跳ねろと言われてしまうか…。)」
そんなことはさせられない。優しい師に、菫は失望も幻滅もしてほしくはないのだ。
「…大丈夫、二人はきっと大丈夫だから、今は炭治郎の代わりに伊之助と善逸の側にいてあげるのよ。」
ばちん!!と大きな音が出るくらいに両頬をつっぱり気合いを入れた。
すうっと大きく息を吸い込む。
「…よし!」
少しだけヒリヒリと痛む頬のお陰で身が引き締まる。水入れを片手に菫は大部屋へと戻っていった。
◆ ◇ ◆
結果的にいうと、菫の心配は杞憂に終わることとなる。菫が水を汲み戻る間に、柱合裁判から戻った炭治郎が隠に背負われ蝶屋敷へ運び込まれたのだ。泣き叫ぶ善逸と沈む伊之助の様子を確認して安堵する炭治郎に、善逸は菫が来ていることを告げた。
「え、菫が?」
「うん、お見舞いに来てくれたみたいでさ、俺や伊之助を励ましてくれたんだけど、すごい心配と不安の音がしてて…。
多分菫ちゃん、炭治郎の事心配してたけど、俺達を不安にさせないように明るく振る舞ってくれてたんだと思うんだよね。」
「そうか…なら、菫にお礼を言わなくちゃ…」
ガシャン!!!と大部屋の入り口で大きな音が出た。耳のいい善逸はヒイイと叫び、炭治郎は肩を大きく跳ねさせた。なんだなんだと二人揃って目をやれば、呆然と立つ菫と、彼女の足元で割れた水入れが目にはいった。
「(あ、炎柱の継子の…)」
「菫!すごい音がしたぞ、大丈夫か?」
「うわ、水入れ粉々ぁ!?菫ちゃん怪我してなあい!?大丈夫!??」
「…った、」
「え?なんて…ってうわあ菫!?座ったら駄目だ破片が刺さるぞ!」
へたりこむように座った菫に慌てて炭治郎が声をかけ、彼を背負った後藤が駆け寄った。善逸の耳は菫が小さく溢した、よかった、をしっかりと拾っていた。
「大丈夫か?突然座り込んで、どこか痛むのか?」
「菫ちゃん、もしかして安心して腰が抜けちゃったんじゃ…」
「え!?そ、そうなのか?そんなに心配かけてたのか、ごめんな菫、俺は大丈夫だよ。」
「っ、ご…」
ごめんね、と小さく溢した菫の瞳から涙が一粒溢れた。
「っえ゛!?」
「た…炭治郎が泣かせたあああアア!!?」
「お前…何したんだよ…。」
「ええっ!?菫、どうしたんだ?ごめんってなんの事だ?」
座り込んでぽろぽろと泣く菫にあたふたと声をかける炭治郎は、とりあえずこのままではいけないと後藤に頼み、菫を立ち上がらせた。
素直に立ち上がった彼女に炭治郎が手を伸ばすと、そのままがしりと羽織の袖を掴まれる。相変わらず目からは次から次へと涙がこぼれ、どうしたものかと後藤と顔を見合わせた。
「ちょっと!お静かにとお伝えしたはずですよ!!」
「わあ!水入れが割れてます!!」
「菫さんが泣いてらっしゃいます!!」
「貴方達何をしたんですか!!!」
「誤解だよぉ!!!」
「菫、本当にどうしたんだ?大丈夫か?」
騒ぎを聞き付けたアオイ達もまざり賑やかになっていく大部屋で、菫は安心から涙が止まらなかった。心配そうに覗き込む炭治郎の羽織を握りしめたまま、ただただ静かに涙した。
「(よかった、生きてる。よかった。)」
泣き止まない菫の頭へ乗せられた炭治郎の手は、温かくて優しかった。
prev next