目白押し


藤の家紋の家を目指しながら、菫はもう何度目かのため息をついた。手が掛からなかったのはいいものの、対峙した鬼は血鬼術を使い、それも泥を操るという、なんともまあ面倒な鬼だった。
油断など微塵もしていなかったのだが、人を庇っていた手前血鬼術を避けることが出来ず、思い切り頭から被ってしまったのだ。

「お待ちしておりました、鬼狩り様。」

藤の家紋の家で出迎えてくれたのは、老女だった。

「夜分遅くにすみません、今晩お世話になってもよろしいですか?」
「もちろんでございます、中へお入り下さい。お怪我はなされておりませんか?」
「怪我はないのですが…この通り、泥を頭から被ってしまいまして…。」
「それでは先に湯を沸かしましょうね。お召し物もお洗濯させて頂きますよ。」
「助かります、よろしくお願いします。」

のんびりとした口調でてきぱきと進めて行くのは流石だった。湯が沸くまでの間、縁側で休ませて貰うことにした菫は、老女ーーひさの手渡してくれた手拭いで頭を拭きつつ、鎹鴉を膝にのせ、のんびり庭を眺めていた。

「ーーがーーろ!ーー!!」
「ーちーーりーも!」
「…なんだか向こうが賑やかだ。」

菫の言葉に鴉がカアッと返事をした直後、奥の方でスパンと障子が開き、聞き覚えのある声が響いた。

「ーーあっ、こら禰豆子!」

廊下を駆ける足音を聞きながら、もしかしてと視線を音のする方へ向けていれば、曲がり角からつい先日知り合った鬼の女の子が飛び出してきた。

「禰豆子ちゃん?」
「…むん!」

菫の隣に座り込んだ禰豆子は、頭をなでてくれと言わんばかりに差し出してくる。
甘えてくる犬や鳥達のように見えた菫は、くすりと笑い、禰豆子の頭を撫で始めた。

「あっ、菫!」

禰豆子を追ってきた炭治郎は、妹を撫でる菫を見つけ近寄った。知っている匂いがするとは思っていたが、そうか菫だったのかと

「こんばんは、炭治郎。二人もここに来てたんだ。」
「ああ、菫は…大丈夫か?」
「これのこと?泥を頭から被っちゃって、今ひささんにお湯を沸かしてもらってるの。怪我はしてないよ。」
「そうなのか、怪我が無くて良かった。」

禰豆子がすまないと眉を下げた炭治郎に菫が笑いかけた直後、炭治郎の背後から妙な叫び声が響いた。

「善逸?」
「え、他の隊士?」
「炭治郎てめえなにかわいい女の子とお知り合ってんだフッザケンナ!!!」

三者三様、各々反応を示し、炭治郎は首をかしげ、菫は禰豆子をそっと隠し、善逸は怒りながら地団駄を踏んだ。

「炭治郎、他の隊士がいるのにあの子を歩かせてたの!?」
「あ、いや違うんだ菫、善逸は禰豆子が鬼だと知ってて協力してくれたんだ。」
「え!?」
「おいこら炭治郎聞いてんのか!!禰豆子ちゃん連れてるだけでも羨ましいってのにお前それを…お前そんな…そんっなかわいい…、…あれ?君どっかで…フギャッ!!!」
「あっ!こら伊之助!!」

ドタドタと足音が近づいた直後、相変わらず地団駄を踏む善逸の頭を蹴り飛ばし、現れたのは猪頭、

「テメーーー!!あの時の鳥女!!!」

最終選別で菫が助けた、嘴平伊之助だった。