雲間の鶴


「くそっくそっくそっ!!!」
「(まだ動くのか…!)」

体を真っ二つに切られた鬼は、下半身をそのままに、地上へと消えて行った。
炎を纏い鬼を切った少女もそれを追って浮上するのを見た炭治郎は、息苦しさに目を細め、自分も急いで地上へと向かった。
手負いの鬼の頸に刃を翳した少女を視界にいれ、炭治郎は慌てて彼女を引き留めた。

「待て!待ってくれ!」

引き留める声に気付き、菫は振り向く。
沼の中で戦っていた鬼殺隊士だ、この鬼の頸を切ってから鬼の女の子について話を聞こうと考えていた菫は、引き留める声に首をかしげた。

「…どうして止めるの?」
「その鬼に聞かねばならない事があるんだ、頼む。まだそいつを切らないでくれ。」
「聞かねばならない事…?」

炭治郎は真っ直ぐに菫を見ながら頷いた。刀を突きつけられた鬼からは、怒りと恐怖の香りがした。

「(…今日の私は随分とらしくないなあ。)」

炭治郎の目を見て、なんて真っ直ぐに自分を見てくるんだと思った菫は、刀は振り抜かず、鬼の頸にかけたまま止まった。
師匠が見ていたら間違いなく怒られるであろうし、教えに反する事はしたくない。だが何か訳があるのだろうと、どちらにも転べるように刀に込める力を緩めることはしなかった。
菫が頸を切ることを一度止めてくれた事で安堵した炭治郎は、刀を突きつけられた鬼に問いかけた。

「お前、鬼舞辻無惨を知っているか?」

鬼から香る恐怖の匂いが、一層濃くなった気がした。



◆ ◇ ◆



結果から言えば、鬼が口を割ることはなかった。会話が終わったことを確認した菫が鬼の頸を切り、鬼は塵となって消えてしまった。

「ありがとう、手を止めてくれて。」

和巳達と別れた後、禰豆子を箱に戻して少女に向き合った。鳶色の髪を持った少女からは、猛禽類のように鋭い瞳とは裏腹に、素直で優しい香りがした。

「なんとなく、…あの子に関わる事なんだろうと思ったから。鬼無辻無惨って、鬼の親でしょう?お師様から聞いてたの。」

禰豆子の入った箱に視線を向けそう告げた少女は、鬼だと気付いているからか少しの罪悪感を持ってしまったように見える。もう一度、今度は禰豆子を切らないで居てくれたことにお礼を告げた。

「禰豆子は俺の妹なんだ。その…、俺の師匠に鬼無辻の事を聞いたから、禰豆子を元に戻すためにも、探しているんだ。」
「…彼女、自分の身を呈して守った人達を撫でていたの。始めはあの人達が喰われてしまうと刀に手をかけたのだけど…拍子抜けしてしまったわ。禰豆子ちゃんって言うのね。」

かわいい妹さんね。と笑った彼女にほっとした炭治郎は、背負った箱を振り向きそっと一なでした。箱からはそれに答えるようにカリカリと音が帰ってきている。
鬼と人が意思を通わせている…本当に不思議だと、それを見た菫は思った。

「でも気をつけて、皆が皆、私のように刀を納めてくれるわけじゃない。あんまり任務中彼女を放って置かない方がいいわ。」
「…ああ、分かった。本当にありがとう、えっと…」
「菫。三鷹菫。」
「そうか!俺は竈門炭治郎。よろしく、菫。」
「よろしく炭治郎。…ああ、そうだ。」

忘れていたといったように溢した菫に、炭治郎は首をかしげた。

「もしも、私のお師様に会ったら、今日私が禰豆子ちゃんを見逃した事は内密にしてね。」

冗談っぽく笑って言った彼女に笑いかけながら分かったと返した炭治郎は、菫と別れたその数刻後に彼女の師匠を聞きそびれたと気づいた。