毎朝流しっぱなしのテレビから聞こえる星占い、一位だったからといって何か良い事がある訳ではない、だだその日一日は少し気分良く過ごせるかもしれない。


「っていう話」

「つまりお前は今日少し気分が良いと」


すんなりと話が通じた事に、また気分が良くなりワイングラスを手に取る。仕事終わりに食事に行こうと誘われてついて来てみればフレンチレストラン、美味しい料理とお酒が私を待っていた。先ほど騰に話したとおり、星占い一位の私は朝からすでに気分が良かった、そして一日の終わりにきてこれだ。ああ、仕事を頑張って良かった。


「いい顔だな」

「だって美味しいんだもん」


メインはお肉でまたワインによく合う、もう何杯目かわからない赤ワインを飲み干すと給仕がグラスにまた同じものを注いだ。そんな私の様子を向かいから見つめると、騰は少しだけ口角を上げる。


デザートまで食べて、濃いめのコーヒーを飲む。口に広がる苦味が酔いを覚ますようだ、自然と頬が緩んでいた。
星占いを信じた事などなかった、でも今日はラッキーだったなと思える。お互いの仕事や予定の為、付き合っていてもこうして騰とゆっくり食事が出来る事は少ない。そもそもだ、出会いからしてラッキーだった、と以前の記憶に埋もれかけた時、騰と目が合った。今日はこのまま帰りたくないな、酔いが回ってきたせいか少し顔が熱い。


「そろそろ出ようか」


私が声を掛けると騰が頷いて支払いを済ませる。騰は明日も仕事かもしれないし、わがまま言わずに帰ろう。エレベーターまで歩いていると急に足元がふらつく。


「……っ」


体勢を崩して膝が付きそうになったところで、騰の腕が私を支えた。服の上からでもわかる逞しい身体に触れたのは久しぶりの事だ、大丈夫か、と騰の顔が近付く、耳元で声がする、また顔が熱くなる。


「ご、ごめん、だい」

「上に部屋を取ってある」


騰の手には黒いカードキーがあった、一瞬何を言っているのか理解出来ずにいると、私の横にあったエレベーターのボタンを押した。すぐにエレベーターが着いて、腰を抱かれながら乗り込む、幸い上へ向かうのは私達だけだったようだ。赤い顔を人に見られずに済む、騰の肩口に押し付けていた顔を上げると頬にそっと唇が触れた。


「そんな顔をするな」

「か、かお?」


思わず自分の顔に指を這わせた、元々こんな顔なんだけどな。エレベーターは高く昇る、その間も騰の片腕は私の身体に回され、もう片方で髪や頬を何度も撫でられる、それに身を任せているとやがてエレベーターが目的の階に到着した、騰は私をエスコートしながら部屋に向かう。カードキーで鍵を開けたのは、一際大きな扉だった。


「わあ!」


入口の対面に大きな窓があり、そこから外の景色が見えた。小走りにその窓に駆け寄ると視界一杯に美しい光が散らばり、思わず目を細める。


「ねえ! 騰!」


すごいね、と振り返ろうと身体を捻る、すると後ろから抱き寄せられて私は騰の身体にすっぽり収まった。


「そんなに可愛い顔をするな」


どうして、そういう事言うかな。恥ずかしくて何も言えずにいると、騰の顔が近付く。肉厚の唇が私のそれに触れるとそこから熱が広がるようだ、合間に漏れる吐息すら奪われて騰に縋り付くと何度も唇を食まれ、名残惜しそうにゆっくりと離れていった。騰は力の抜けた私を一層強く抱き締めて首元へ顔を埋める。


「私だけがいい」

「え、」

「触れるとすぐに赤くなる名前も、夜景に目を輝かせる名前も、こうやって無防備に身体を預ける名前も。この先こんなお前を見るのは私だけがいい」


真剣な声に胸が締め付けられる、どくどくと脈打つ心臓の音が伝わってしまいそうだ。俯いているとするりと指を絡め取られ薬指に指輪がはめられた。輝く円環に驚いて振り返る、騰はとても優しい顔をしていた。


「ずっと一緒にいたいのだ」

「わ、私もっ」


慌てて言葉を返すと、騰は笑って私の手を取り優しく口付けた。その感触は現実そのもので知らないうちにぽろっと涙が零れる。


「可愛い名前、私と結婚してくれ」






幸運な日の話







END
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