紅に染まる
「見て! これ買っちゃった」

親指と人差し指で挟んで彼に見せたのは、一本の口紅。有名ブランドから新作の口紅が発売されたので、売り切れる前に朝一で買いに行ったのだ。

「ホォー……」

関心があるのかないのか分からない反応。予想通りと言えば予想通り。化粧品に興味があるとは思っていなかったので、見せるだけ見せてからすぐにドレッサーへと向かう。早速つけてみようとキャップを外すと、後ろに人の気配を感じた。そして私の手から新品の口紅をとり、ふっと笑みを浮かべる。

「何……?」
「いいからそこに座るんだ」

ドレッサーの椅子を反対に向け、赤井さんと向かい合う形になったそこに言われるがまま腰をかけると、赤井さんも私と視線を合わせるように屈んだ。

私の顎に優しく彼の右手がかかる。そして軽く顎を持ち上げたかと思えば、左手に持っている口紅をそっと私の唇に乗せた。ゆっくりと紅を引かれ、その手つきに鼓動が高鳴るのを感じながら赤井さんに身を委ねる。

「できた。よく似合っている」

そう言うが早いか赤井さんの顔が近づいてきて、唇には柔らかい感触。ちゅ、と小さなリップ音を立てた後、赤井さんの唇は離れていった。

「ふふっ、ついてる」

赤井さんの唇に紅とラメがついているのを見て、つい人差し指を彼の唇に伸ばす。赤井さんの唇がいつもよりほんのり紅く色づいているのはなんだかセクシーで、どくんと心臓が音を立てた。

伸ばした指でそっと唇をなぞる。すぐにその手は赤井さんの手に捕らえられ、再び唇が重なる。キスをしたあとの彼の唇は更に紅く染まっていた。


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