ただ君が好き@
※2万打リク心ここにしかあらずのその後
彼女が就職のために上京して数ヶ月が経った。
新社会人として何かと忙しい奈々美ちゃんと、ありがたいことに忙しくさせてもらってる俺たちTRIGGER。
折角すぐに会える距離に居るのに、なかなか会えない日々が続いていた。
金曜日の夜。
久々に会える喜びから、予定の時間よりだいぶ早く奈々美ちゃんの家へ向かったが、そこに彼女の姿はなかった。
早すぎたかな?と時計に目をやるも、時計は21時を過ぎたところで、いつもならとっくに家に帰っているはずの時間だ。
-お疲れ様。まだ職場?
迎えに行こうか?と打ちかけて、その文を削除した。沖縄ならまだしも、この東京で、TRIGGERの十龍之介が女性を迎えに行くなんてできっこないからだ。
代わりに打った、奈々美ちゃんの家で待ってるね。という一文を添えて、ラビチャを送るも、一向に既読がつかない。
ようやく既読がついたかと思えば、返信は『ごめんね、少し遅くなりそう…!』というシンプルなもので、奈々美ちゃんが今どこで何をしているかは、俺には見当もつかなかった。
気が付いたら、時刻は23時を回ろうとしていた。
1通目の返事以降既読がつかないラビチャの画面を眺め、何かあったのかと、いつでも外に出られるようにキャップとマスクをつけたまま部屋の中を歩き回りながら電話をかければ、その着信音はすぐ近く、玄関の外から聞こえてきた。
よかった。帰ってきたんだ。
ほっと安堵の息を吐き、鍵を外してドアを開けると同時に飛び込んできた光景に、俺は目を丸くした。
「うわっ!びっくりした…!」
そこには、見知らぬ青年に腰を抱かれた状態で立っている奈々美ちゃんがいたのだ。彼女は足元がおぼつかない状態で、誰がどう見ても酔っ払っている。
俺を見たまま気まずそうな表情を浮かべている青年はスーツ姿で、見たところ奈々美ちゃんの同期か上司と言ったところだろうか。
「こんばんは…」
「あ、えっと…こんばんは。奈々美さんのお兄さん、ですか?」
恐る恐る尋ねてきた青年の顔には、やってしまった。と書かれていて、彼が下心を持って彼女を家まで送り届けたのは明白だった。
「兄じゃなくて、恋人です」
思ったよりも低い自分の声に、大人気ないなと呆れてしまう。それと同時に、マスクをしていてよかったと、心底思った。きっと彼は、俺がTRIGGERの十龍之介だとは思っていないだろう。
俺の声に反応した奈々美ちゃんが、彼に寄り掛かるようにして俯かせていた顔をゆっくりとあげた。
「りゅう、くん…?」
「えっ?!彼氏?!そんな話一言も…!あ、いや!えっと、会社の飲み会で、奈々美さんが酔っちゃったので、俺は送り届けただけで…」
「そう。送ってくれてありがとう。もう大丈夫だから。君は帰っていいよ」
そう言って、半ば強引に奈々美ちゃんを抱き寄せる俺の声色から怒気を感じ取ったのか、しっ、失礼します!と逃げるように去っていった彼の背中を、俺は睨みつけながら見送った。
ドアを閉めて俺の腕の中に大人しく収まっている奈々美ちゃんの頬に手を添えれば、酔っているせいでいつもより体温が高く、思わず顔を顰めそうになった。
「龍くん…」
「おかえり、奈々美ちゃん。大丈夫?水飲もうか」
「う、ん…。あの、ごめんね…今日、龍くんが来てくれる日って、私、ちゃんと覚えてたんだよ」
でも断れなくてね。いつもよりゆったりした口調で、まるでうわ言のようにそう言う奈々美ちゃんに相槌を打ちながら、俺は彼女を横抱きにしてベッドへとそっと下ろす。
身につけていたキャップとマスクをはずし、不安げに俺を見上げる奈々美ちゃんのおでこにキスを落とせば、彼女の表情が和らいだ。
「水持ってくるね」
「ありがとう…」
キッチンへと向かい、水をグラスへと注ぐと同時に深く息を吐く。
その息と一緒に吐いたのは、醜い感情だった。
見知らぬ青年に支えられている奈々美ちゃんを見た時から、俺の心の中で渦巻くその感情は、嫉妬心とも言えるし、独占欲とも言えるのだろう。
「…本当、大人気ないな」
今日みたいなことは、今までもあったんだろうか。そう考え出せば心配事は絶えなくて、一度吐き出したはずなのに、また心の中に醜い感情が湧いてくる。
彼女の事を信じていないわけじゃないのに。
これじゃ遠距離をしていた時と同じじゃないかと、自分の女々しさに呆れながら、俺は再び深く息を吐いた。
「お待たせ。水持ってき…って、寝ちゃったか…」
ローテーブルの上にグラスを置き、すうすうと寝息を立てている奈々美ちゃんを眺める。
ベッドの下には脱ぎ捨てられたジャケット。暑かったのか、ブラウスのボタンは胸の谷間が見えるところまで開けられていて、上品な長さのスカートも際どいところまで捲れ上がっている。
無防備な彼女の姿に自然と抱いた劣情は、今日はもう止められそうにない。
「…好きだよ、奈々美ちゃん」
その言葉をかき消すように軋んだベッドのスプリングに、少し静かにしててくれないかと心の中で呟きながら、俺は無防備に晒された彼女の首筋にそっと唇を落とした。
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