おかしい。
おかしいおかしい。
私は頭をぐるぐると高速回転させていた。
遡ること数時間前
私は気づくと交差点にいた。
何故なのかは分からないが、点滅する信号機を傍目にただ立ち尽くしていたのである。
私、何をしようとここに来たんだっけ
肩にかけていた鞄を見る。
あれ?持っていたはずの鞄が、ない。
キョロキョロと周りを見渡すが、近くに落ちている気配はなかった。
そしてこの時、自分が制服を着ていることに気がついた。
これはどう考えてもおかしい。
私はとうの昔に二十歳を超えているし、会社勤めをしている身だからである。
紺色のプリーツスカートに、白いソックスとローファー。
白Yシャツの上にはアイボリー色のセーターを羽織り、ネクタイを締めていた。
かわいい。
可愛いけど、こんな制服に着替えた覚えはないし、着たところで外に出る勇気もない!
急激に恥ずかしさが込み上げてきた時、頭上の信号機が青に変わった。
途端に待っていた人々が一斉に歩き出す。
私はその流れに逆らえないまま前へ歩を進めた。
もうすぐ反対側に着くという頃、「あー!いたいた!!!」と1人の男の子が私を指差し走ってきた。
横断歩道を渡りきり、その子が目の前でぜえぜえと息を整えている姿をまじまじと見つめる。
あれ、この顔、どこかで———
「探しましたよ、無事見つかって良かった」
安堵した顔で笑うその子は、体格が良く特徴的な髪型で、柔らかい声色の青年だった。
そう、驚くべきことに彼は容姿から声まで大石にそっくりなのである。
私は状況が飲み込めないままただ黙って虚空を見つめた。
つまり、夢を見ているのかもしれない。
常々大好きな作品の中で生きられたら、という願望がついに体現したのかもしれない。
「苗字名前さんで間違いないですよね、」
大石らしき人物はスマホを取り出して私の顔を確認しつつ尋ねた。
私が反射的に「はい」と返事をすると、彼は二度ほど頷き「さあ、行きましょう。もう練習が始まってますので」と歩き出した。
とにかくここにいても何も出来ないし、夢だとしてもここからどんなストーリーが待っているのかという好奇心にくすぐられ、先を歩く青年の後を追うことにした。
あれ、
そういえば私の名前をなぜ知っているのか
そんな疑問を打ち消すかのように青年の言葉が思考を遮った。
「ああ、俺は大石秀一郎です。よろしく」
一旦足を止めてこちらを振り返った彼は、まさしく私の知っている"大石"だった。