ぞくり、と冷たい何かが体を這い回る感覚。生徒たちの声が聞こえて目を開けた。
ディメンターだ。
「静かに!」
すこし声が嗄れていたが、生徒たちは静かになってくれた。杖先に灯をともすと、うっすら人の顔が見えた。ハリー!
私はドアに向かった。しかし、私がドアに手をかける前にドアはゆっくりと開いた。
私の杖灯にディメンターの姿が浮かび上がったーーぞっとするような冷気。私が震えるのと同時に、ハリーが座席から落ちた。
「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ」
ディメンターは動かない。
幸福な気分になどなれなかったが、呪文を唱えてディメンターを追い払った。私の守護霊は形をとらなかった。
ホグワーツ特急がようやく動き出した。子どもたちが気を失っているハリーを起こし、座席に座らせる。みんな動転しているようで、蒼白な顔をしていた。私はこの間ハニーデュークスで買った板チョコを割り、配った。
「あれはなんだったのですか?」
ハリーがチョコレートを手に持ったまま、暗い声で呟いた。
「ディメンター。アズカバンのディメンターのうちのひとりだ」
ハリーとの十余年ぶりの再会を楽しみたかったが、運転手と話さなければいけない旨を伝えてコンパートメントを出た。
通路はまだ冷え冷えとしていたし、運転手もひどく動揺していた。おそらくコンパートメントの中では生徒たちもそうだろう。運転手にもチョコレートを渡して、ダンブルドアにふくろう便を送っておくと伝えてコンパートメントに戻った。
扉を開けると、ハリーはまだチョコレートを手に持ったままだった。他の子どもたちも食べていなかった。
「おやおや、チョコレートに毒なんか入れてないよ!......あと十分でホグワーツに着く。ハリー、大丈夫かい?」
はい、と小さな声でハリーが答えたけれど、到着までは誰も話さなかった。私は雨の叩きつける窓を見つめていた。