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荷物を置いていたコンパートメントには他の人はいなくて、僕は話しかけられないように寝たふりをした。これから七年間、目立たないようにしなきゃいけない、とつぶやいてから。


目は閉じていても眠れなかった。車内販売のカートの音がしたけど、僕は母さんがもたせてくれたパンとチョコビスケットとチョコマフィンがあるから寝たふりを続けていた。
僕は甘いものが大好きだ。小さい頃、たまに父さんが仕事の帰りにハニーデュークスっていうお店のお菓子を買ってきてくれた。母さんはマグルだけど、魔法界のお菓子も美味しいと言っていた。母さんが作ってくれるお菓子もとても美味しかった。
隣の家のおばさんも料理が上手で、僕はおばさんのチョコクリームがたっぷりのったスコーンが大好物だった。
小さい頃の思い出はチョコレートみたいに甘くて幸せで、でも今はもう戻れない。

五歳の誕生日の少し前、僕が大きな怪我をして、それから“病気”になって、幸せな生活は終わった。
夜は外に行っちゃいけないって言われていたけど、月が大きくてお昼みたいに明るかったからこっそり庭に出た。きれいな満月に見とれていたら、何かが唸るような音がして、黒い大きな影が飛び出してきた。それから満月は見ていない。
目が覚めると、母さんが泣いていて、その隣で父さんが難しい顔をしているのが見えた。助かったのね、よかったと母さんは喜んだけど、今考えてみると助かってよかったのかどうかはわからない。それから数日、父さんは、仕事から帰ってきてからずっと本を読んで杖を振っていた。

しばらく経った日、家に新しい部屋ができた。今日はこの部屋で寝ないといけないと言われて、びっくりしたけどその部屋で寝た。
目が覚めると僕は、その部屋じゃなく、僕の部屋のベッドの上にいた。

“新しい部屋で寝ないといけない日”はたまにやってきた。そして目が覚めたら、いつも僕は自分のベッドで寝ていた。
その頃から、僕はあまり外で遊ばなくなった。いつも遊んでいた友達が遊びに誘ってくれなくなって、隣の家のおばさんも遊びにこなくなった。
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