少し前のお話。

それは先日のお昼前のことだ。

教員室にて仕事をしていると立て付けの悪いドアがノックも無しに突然開いた。
その開いたドアの先にはこの学校の理事長である浅野學峯の姿が。
予想外の人物の登場に一瞬戸惑うも、何かあったのかと問いかけた。

その問いかけに少しばかり顔を歪めると一言「"殺せんせー"に少しお話が」とこの理事長にしては珍しく余裕がないように見える。
「ここで少し待たせてもらいます」と言って教員室に入ってきた理事長はそのまま窓辺へ近づくと何も言わずに外を眺めた。


「…」

「…」

「…」


重い沈黙に耐えられず、イリーナがこそこそと俺の席に近づいて耳打ちした。


「…わざわざ理事長サマがここに来てまでする話って何?」

「…知らん」


イリーナにそう答えながら、少し思案する。

前回彼が来た時は中間試験の前。
最近のE組について、自分の教育理念に反すると忠告しに来た時だった。
ということは、今回も彼の何かに反することでもあったのだろうか。
しかし、思い当たる節がない。
寧ろ、彼の強引なやり方に被害を受けたのはこちらの方だ。

…まあ、俺に思い当たる節がなくとも、彼が自ら旧校舎へ来たということは何かしらあったのだろう。
でなければ、わざわざこんな所まで出向いたりはしな………まさか、あの黄色い超生物、何か問題でも起こしたのか。


(いや、まさか……ないな)


俺がそう結論付けようとした所で、アイツが教室から戻ってきた。


「いやー、皆さん勉強熱心で…」


そう言いながら入ってきたアイツは、普段教員室にはいない人物を見て言葉を変えた。


「…おやおや、どうかしましたか?」


若干声に刺があるのは中間試験の件を根に持っているからなのか。
そして、そう声をかけられた理事長も負けず劣らず苛立ちを全面に押し出しながら「単刀直入に聞きます」と言葉を一度切った。


「私の娘が突然E組に行きたいと言い出したんですが………何か心当たりがあるのでは?"殺せんせー"?」


理事長の言葉に「さ、さあ?…なんのことでしょう」と答えたが、明らかに何か知っている表情だろ、それは。
相変わらず分かりやすいコイツに若干冷や汗が出る。

一体何したんだ、コイツは…!
今すぐ問い質したい気持ちを抑え、ひやひやと成り行きを見守っていると、さっきまでの誤魔化そうとした表情から一変してニヤニヤし始めた。


「…それで、認めてあげるんですか?E組に来ることを」


その問いかけに理事長も笑顔を作って答えるが、目が全く笑っていない。


「…ええ、仕方がないので認めましたよ」

「そうですか。きっと、優良さんも喜んでいるでしょう?」

「…それはもう、嬉しそうに笑ってましたよ」


そう答えた瞬間、理事長の周りにブリザードが見えた気がした。
お互い笑っているのに対照的なオーラを纏いながら会話をする一人と一匹。

………ああ、目眩がする。



*

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CrystalpalacE