オレにも頂戴。

お昼休み。
優良ちゃんの食べているプリンを見て、良いことを思いついた。


「へー、美味しそうなの食べてるね」


「誰かの手作り?」と問いかければ、こくりと頷く優良ちゃん。
何でも、原さんの手作りらしい。
幸せそうに食べている優良ちゃんに「オレにも頂戴」と冗談半分で言ったら、優良ちゃんは目をぱちくりさせた。
その後「はい、どうぞ」とプリンの乗ったスプーンがオレに向けて差し出される。


「…!」

「「「「「…!!」」」」」


そのことに吃驚するオレ…とクラスメイト達。
…いや、確かに頂戴って言ったのはオレだけどさ。
優良ちゃんのことだから、分けてくれるだろうなぁとも思ってたけど…。
…まさか、そうくるとは思わなかった。

同じスプーンを使ったことを指摘して、間接キスだと優良ちゃんをからかおうかなと目論んでいただけに先手を打たれた気分だ。
しかも、差し出してる本人は照れてる様子もなく、至っていつも通りだし。
…優良ちゃんを照れさせようと思ってたのに、何でオレが照れそうになってんの。


(……)


だからと言って、ここで照れるわけにはいかない。
だって優良ちゃんいつも通りだし。
ここで照れたらオレだけ意識してるみたいじゃん。
それだけは避けたい。
…照れるとしても、優良ちゃんも照れさせたい。


「…?カルマくん」


そんな心の葛藤など、優良ちゃんは知らないわけで。
一向に食べる気配のないオレに不安そうな表情で「や、やっぱり、いりませんか…?」と尋ねてきた。
遠くで「だったら俺が…!」と岡島が名乗りを上げようとして、三村に止められているのが見える。

その岡島の言葉で、固まっていたクラスメイト達が動き出す。
少し離れた所にいた片岡さんが優良ちゃんの所まですっ飛んで来た。
「そういうことは気軽にやっちゃダメ」とか「男子にはやらない方が良い」とか注意の言葉が色々聞こえてくるけど、それを言われてる本人はきょとんとしていた。


「えっ…でも…」


父や兄には普通にしていることだったらしいその行動。
…ああ、なんか、納得。
優良ちゃんの行動って基本あの親子に影響されてる所があるからなぁ。
そのせいか、普通から逸脱していることが多々ある。

そんな優良ちゃんを照れさせるのは少し難しいかと判断し、仕方なく覚悟を決める。
…だって、オレから引くの嫌だし。


(とりあえず、何も考えるな)


照れてることが伝わらないように、無心になれと自分自身に暗示をかけていたら「普通は恋人同士でやるものだよね」と茅野ちゃんが片岡さんの言葉を助けるように言った。


「…!!!」


茅野ちゃんの言葉に、目を丸くする優良ちゃん。
暫くすると、さっきまでの表情とは一変して少し恥ずかしそうにオレに向けていたスプーンを引こうとした。
思わぬ優良ちゃんの変化に、これはチャンスと思わず体が動いてしまう。

優良ちゃんが引っ込めようとしていた腕を反射的に掴むと、そのままスプーンを口に咥えた。
そのことに驚いて固まる優良ちゃん。
暫くして状況を理解したのか、みるみる顔を赤くした。
その表情に満足して思わず笑みが浮かぶ。
満足げにスプーンから口を離せば、真っ赤になった優良ちゃんと目が合った。
…それも一瞬だけで、すぐに俯かれちゃったけど。

その反応に、思わずオレまで照れてしまいそうになる。
それを誤魔化すように「ホントだ。美味しい」と言えば、片岡さんに怒られた。

…咄嗟に美味しいって言ったけど、無意識過ぎて味の記憶があんまりないや。
片岡さんの言葉を聞き流しながらそんなことをぼんやり思っていると、視界の端に優良ちゃんが映る。


(…あ、)


恥ずかしそうに俯いていた優良ちゃんが、それを紛らわせるためかプリンを一口掬って口に含んだ。
ここで彼女に間接キスだと言ったらもっと照れるのだろうかと興味を惹かれたけど、これ以上片岡さんの説教が長引くのは避けたいかなぁ…。

…うん、次の機会にしておこう。



*

[*prev] [next#]

[ back ]


CrystalpalacE