ちょっと困らせてみる。

家に帰ると、やたらとそわそわしている優良を見かけた。
何かあったのかと話しかけたものの、何でもないの一点張りだったため問い詰めるのを止めた。
それが帰宅直後の話だ。

それから、今日中に片付けておきたい仕事をするために書斎に向かった。
いつものように優良がコーヒーを入れて持ってきてくれたのだが、明らかに様子がおかしい。
コーヒーを見つめ、私を見つめ、そわそわした後、申し訳なさそうな表情をした優良。


(…何か入ってるのか)


そう思って、コーヒーの匂いを嗅いでみる。
いつものコーヒーの香りに混じって、ほんのり唐辛子の匂いがした。


「…何か入っているようだね?」

「…!!!」


優良にそう聞けば、素直に「タバスコが入っています…」と返ってきた。
…やはりか。
何故コーヒーにタバスコを仕込んだのかは分からないが、分かりやすい優良がやったのでは私でなくても飲む前に気づくだろう。
椅子から立ち上がって優良に近づけば、きゅっと目を閉じる優良。

…怒られるとでも思っているのだろうか。
怒るも何も、こんな分かりやすい悪戯では怒り様がないのだが…。
思わず苦笑が漏れそうになるのを抑え、優良の頭を撫でた。


「随分と可愛らしい悪戯だ」



お風呂に入ろうとした所、優良が何かをしようと決意しているのを見かけた。
…今度は一体何をしようとしているのか。
脱衣室に向かう振りをして、優良の後をこっそりと付けてみることにした。

たどり着いたのは私の寝室。
タバスコの次は何をするつもりなのかと、中を覗けばクローゼットでごそごそとしている優良が見えた。
暫く様子を窺うと、優良の手には私の手帳があった。


「…何をしているのかな?」

「…!!!」


背後から声をかければ、驚く優良。
「私の部屋で何をしているんだい?」と問いかければ「お父様の大事な手帳を隠そうとしてました…」と俯きながら答えた。


(…大事か)


確かにその手帳も大事ではあるが…。
実際にはその手帳よりも中に入っている優良の写真を大事にしているのだが。
それをわざわざ訂正する必要もないので、黙っておく。

優良の頭を撫でながら「そんなに構って欲しいのか」と言ったら、何故か落ち込んでしまった。


(…私に対する嫌がらせだったのだろうか)



お風呂に入ってから暫く、リビングで本を読んでいると優良がリビングへやって来た。
またしてもそわそわしているので、まだ何かするつもりなのだろう。
優良の嫌がらせとも取れる行動に反抗期だろうか…と思っていると、水をかけられた。


「…優良」


「今日はやたらと私を困らせようとするね」と言えば、優良は慌てて謝った。
「今のはわざとじゃなくて…」と続ける優良に「…今の、ということは、今を除く今までのはわざとだったのかな?」と意地悪く問いかければ首を横に振って否定した。

「ち、ちがうの…!」と慌てている優良の腕を引いて、私の膝の上に座らせる。
大人しく誘導されるままに私の膝の上へ座った優良は「ごめんなさい…」と謝罪する。

事情を聞くと、E組の生徒達に頼まれたとか。
怒られたことがなさそうと言われたとか。

…なるほど。
あの時落ち込んでいたのは、怒られなかったことに対してか。
あの程度のことでは怒らないと優良に伝えれば、優良はもう一度ごめんなさいと謝った。

さて、優良の話を聞く限り、このことはE組の生徒達に報告されてしまうようだ。
それを阻止するには優良の口を封じるのが一番手っ取り早い。


「…お風呂に入りなおしてくるとしようか」


そう言って、優良を抱きながら立ち上がる。


「…?」


不思議そうに私を呼ぶ優良に「勿論、付き合ってくれるだろう?」と問えば、目を丸くして吃驚していた。
「散々振り回したのだから、これくらい当然だと思うが?」と言って歩き出せば、慌てて首を横に振る優良に思わず笑みが浮かぶ。
これで優良も懲りるだろう。



怒るだけが躾とは限らない。



*

[*prev] [next#]

[ back ]


CrystalpalacE