ちょっと困らせてみる。

カルマくんに提案された通り、コーヒーにタバスコを入れてみた。
書斎でお仕事をしているお父様に、このコーヒーを渡すのはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
でも、やってみるって約束しちゃったし…。
お父様に心の中で謝ってから、お父様のいる書斎の扉をノックした。

…結果、飲む前にバレてしまった。


「…何か入っているようだね?」

「…!!!」


お父様の有無を言わせない問いかけに素直に「タバスコが入っています…」と答えたら、お父様は椅子から立ち上がってこちらにやって来た。
怒られちゃう…。
目をきゅっと閉じたら、頭を撫でる感触がした。
恐る恐る目を開けてみると、いつも通り優しそうな顔をしたお父様の姿が。


「…?」


怒らないのかなと不思議に思っていたら、かわいい悪戯だと言われてしまった。
…あ、あれ?

―――「優良ちゃんなら、何しても怒られなさそうだな」という前原くんの言葉を思い出す。
そ、そんなこと…ない…はず…。



次に、お父様が大事にしている物を隠してみることにした。
「壊すくらいじゃないとダメだと思うけど…」と渚くんに言われたけれど、お父様の私物を壊すのは躊躇われたので、お父様が大事に持ち歩いてる手帳を隠すことにしてみた。

…今度こそ、怒られるでしょうか?
趣旨が少しずれていることに気づくこともなく、お父様の寝室へと向かう。
お父様がお風呂に入っている間に寝室へ忍び込んで、スーツの内ポケットに手を忍ばせた。
あ…あった…。
ポケットから手帳を取り出して、その場をあとにしようとしたら、背後から声をかけられた。


「…何をしているのかな?」

「…!!!」


お、お父様…!
お、お風呂に入っていたはずなのに…、なんで…。
びっくりして固まっていると「私の部屋で何をしているんだい?」とまたしても有無を言わせないお父様の問いかけに、大人しく答えるのだった。

…怒られるかな?とお父様を盗み見たが「そんなに構って欲しいのか」と頭を撫でられただけだった。

…お、怒られない。



思ってた以上に怒られるって難しいんだと実感していると、律ちゃんから顔に落書きでもしてみたらどうですかと提案された。

…落書き。
律ちゃん曰く悪戯の定番らしい落書きを実行するために、お父様が眠るのを待つことにした。
リビングで読書をしているお父様を盗み見ながら、私も読書をする。

…まだかな。
少しそわそわしながら辺りを見渡すと、お花の飾られた花瓶が目に入った。


(そうだ、まだお花のお水を換えてない…)


そう思い出して、ソファーから立ち上がり花瓶の元へと向かう。
花瓶を持ってお父様の近くを通ろうとしたら、何かに躓いてしまった。

…え!?!?
躓いた拍子に花瓶が傾き、中に入っていたお水とお花が辺りに散らばってしまった。
な、何に躓いたんだろうと振り返ったけど、何もなかった。
あ、あれ…?
不思議に思いつつ、前を向いたらびっくり。


「!!!」

「…」


どうやら、お父様にお水をかけてしまったようです。


「…優良」


「今日はやたらと私を困らせようとするね」と言葉を続けるお父様に「ご、ごめんなさい…!」と慌てて謝った。


「今のはわざとじゃなくて…」

「…今の、ということは、今を除く今までのはわざとだったのかな?」

「…!!」


「ち、ちがうの…!」と首を横に振って否定してると、腕を引かれてお父様の膝の上に誘導されてしまった。


「ごめんなさい…」


大人しくお父様の膝に座りながら謝罪する。
事情を説明すると、お父様は優しく頭を撫でてくれた。
…怒ってない。
そんなことを思っていると「…お風呂に入りなおしてくるとしようか」と言いながらお父様はソファーから立ち上がった。


「…?」


私も一緒に抱き上げられてしまったことを不思議に思い「…お父様?」と首を傾げれば、何故か笑顔を向けられた。


「勿論、付き合ってくれるだろう?」

「…!!!」

「散々振り回したのだから、これくらい当然だと思うが?」と言いながら、歩き出してしまったお父様に慌てて首を横に振る。
そんな私を余所にお父様はとても楽しそうに笑っていた。
お父様の歩みを止めることも、抱きかかえられた腕から逃れることもできず、ほぼ強制的に脱衣室まで連行されてしまうのだった。



後日、莉桜ちゃん達に結果を聞かれたけれど、とても答えられるようなものではなかったので、言えないと首を横に振った。



*

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