「っ、やめろっ!」
『しーっ。静かにしないとマナルナちゃん起きちゃうよ?こんなところ見られてもいいの?』
「っ!」
『ふふ、三ツ谷かーわい。ねぇ、もうイイ?』
「だ、から、やめろって!」
『聞かなぁい。では、いただきまーす、んっ…』
「…ぐっ、ぁ!」
三ツ谷の綺麗な首筋に噛みつき、じゅるじゅると血を啜る。三ツ谷の血は甘くて極上で、白い肌に残るキバの跡は、私を欲情させるのに充分だ。
三ツ谷の匂いも、痛みに耐える表情も、隣にいる妹たちにバレないように詰むんだ口から漏れる吐息も、ぜんぶ。
『三ツ谷はあたしのモノだよ、ずっとね?』
*
「おはようナマエちゃん!」
『ヒナちゃん、おはよう!』
「大丈夫?なんか眠たそうだけど…」
『うーんちょっとね…って、ん?ヒナちゃんからタケミチの匂いがする…』
「えっ!?嘘、本当っ?」
『これはこれは、朝からお楽しみでしたね?』
「えっと…。えへへ、実はちょこっと血を貰ったの」
「ちょっとぉ〜?ちょっとだったらこんな匂いしませんわよヒナタさん?」
『エマちゃん(笑)どこぞのおばさんみたいだけど』
「だってぇ〜!最近のヒナ、ラブラブ彼氏にベッタリで寂しいんだもん」
「ごめんねっ、なんか最近すごく喉が渇いちゃって…」
「まぁ、ウチら吸血鬼は、歳を追うごとに吸血衝動が抑えられなくなるみたいだからね。人間と同じようにご飯を食べても、やっぱり少量でも血はもらわないときついよね」
エマちゃんの言うとおり、私たち吸血鬼にとって人間の血は必要不可欠だ。
この世界では、何故か女だけが吸血鬼となっている。この現象は未だに解明されていなく、歳を追うごとに増加する吸血衝動をコントロール出来ないまま、最悪処刑に至る吸血鬼もいるのだとか。
「不思議なのは、吸血鬼同士じゃ満たされないところだよね。血=人間、つまり男の人ってことだから尚更むずかしい」
「だから、少なくともあと3ヶ月でパートナーを見つけないといけない」
『ユズハ!』
「吸血衝動を抑える薬も、未だ発明されず、かといってパートナーを探すのも至難の業。アタシら
ユズハの言うとおり、吸血衝動を抑える薬はもう何年も前から研究されているのにもかかわらず、未だに発明されていない。
でも吸血衝動は言わば生理現象。簡単には抑えられないし、それがいつ暴走し、人間を無差別に襲うかわからない為、その薬を発明できない内は、男女のパートナー制度を政策すると最近になって打ち出した。
パートナー関係、つまり血を分けてもらう関係を、きちんと書面にて契約を交わすことだ。そうすることで、吸血鬼たちに満遍なく血が行き届き、血に飢えることなく、人間も吸血鬼も平常を保てるであろうというのが狙いらしい。
すでに、パートナー関係として成立しているところは良いとして、相手がいない場合は、あと3ヶ月後に国から振り当てられた相手とパートナー関係を結ぶことになる。
これは、吸血鬼と人間が共存していくには必要なことなんだと偉い学者がテレビで高々言っていたのを記憶している。
「パートナー関係といえば、もうヒナにはタケミっちがいるし大丈夫だね!」
「うん!でも、みんなは…?」
「アタシは、その振り当てられたのでいい。面倒だしな。ホントは八戒のがいいけど身内だから無理だし」
『出たブラコン。ま、あたしもユズハと同じかな』
「えーナマエもそんな感じ!?ウチは…、何とかドラケンに相談して結んでもらうようにするかな」
「大丈夫だよエマちゃんなら!そうと決まれば今日の放課後に行こう!」
顔を紅くしながら俯くエマちゃんの背中をぐいぐい押していくヒナちゃん。なんだか幸せそうに笑っていて可愛いなあ。
「ナマエは三ツ谷じゃなかった?」
『え?』
「何となくアイツの匂いがする気がして」
違うならごめん、と手をヒラヒラと振りユズハも教室へ向かって行った。
『……ユズハは気づいてないんだなぁ』
*
放課後。
エマちゃんとヒナちゃんは、ドラケンの所に向かったし、ユズハは見当たらない。
まっすぐ帰ろうと思ったけど、手芸部をのぞいてから帰ろうかな。三ツ谷、いるだろうし。
手芸部に近づくと、中から楽しそうな声。
「部長、ここはどうしたらいいですか?」
「ここは青糸使ってみるといいよ」
「本当に部長ってセンスの塊だよね!」
三ツ谷と部員の女の子、私には見せない顔。
気が付いたら、ドアに手をかけてた。
『みーつやくん』
「っ!」
『ちょっと出てこれる?』
「今は無理だ、見ればわかんだろ。後にしろ」
『昨夜のことなんだけど…』
「っ、」
三ツ谷は悔しそうな顔をしながら、こっちに来る。何だかんだ突っぱねないからだめなんだよ。
「なんだよ」
『んー?別に、ただ三ツ谷の顔見たら血が欲しくなっただけ』
「おい、あんまそういうのここで話すなよ!」
『難しいな〜。夜もだめって言うし、昼間もだめって。じゃあどこで話したらいいの?』
「別に学校じゃなくてもいいだろ」
話す場所がダメなだけであって、血を渡さないとは言わないから三ツ谷って本当にお人好し。
三ツ谷は人気者だから、今も中の部員の子たちがソワソワしてる。私に取られないか不安なんだろうな。
「あ、いた三ツ谷」
『っ』
「ユズハか。どうした?」
「取り込み中?」
「ただ話してただけだ。なんか用か?」
「八戒から伝言…、ナマエちょっと三ツ谷借りんね」
『どうぞ』
話し始めた二人をじっと見て思う。
多分、三ツ谷はユズハのことが好きだ。だって顔を見てればわかる。私にはもちろんのこと、部員の子たちにすら見せない表情をするから。
今だって、もうさっきの焦り顔はどこへやら。私なんか眼中に無いって感じ。
もしパートナー関係を結ぶなら、本当は二人はすごくお似合いだったりする。
でもユズハも、もしかしたらきっと三ツ谷でさえも気付いてない。
私がきっとお邪魔虫。
これ以上、二人を見ていられなくて、三ツ谷を呼び出したことなんて忘れてその場を後にした。
二人が見えなくなる直前、振り返ったらユズハと話していたはずの三ツ谷は少し驚いた顔をしてこっちを見ていた。
*
帰り道、今までのことを考える。
三ツ谷のことを考えれば、私が身を引けばスムーズなんだろうな。
幾度となく見てきた、ユズハと三ツ谷のやり取り。
ユズハは腐れ縁なんて言っていたけど、本当はどうなんだろうか。弟の八戒ですら絶対似合ってんのになーって言ってるくらいだから、本当はもう付き合ってたりして。
「あ、ナマエー!」
後ろから声をかけられる。ヒナちゃんとエマちゃんだ。
「こっちきてきて!今ね、エマちゃんがね!ついにね!」
「やだヒナ!恥ずかしいよう〜!」
『二人共どうしたの?』
「ドラケンがね、パートナーの件OKしてくれたの!」
『ほ、本当!?すごいね、おめでとう!』
「ありがとう!それでね、さっきヒナと話してたんだけど…」
「ナマエちゃん聞いたことある?実はね、自分のことを好きでいてくれてる人の血を飲むと、すっごく甘くてね、極上なんだって!」
『……え?』
「あ、勿論自分が好きってことも前提ね!それで、さっきドラケンの少し貰ったの。そしたら、今まで味わったことないくらい甘かった!」
「つまり、両想いってこと!ヒナも最初はタケミチ君の血が甘いのかと思ってたんだけど」
『……』
自分のことを好きでいてくれる?両想い?
「ヒナはいっつもこんな美味しい思いしてたんだね!」
「…えへへ」
『ちょっとごめん、私帰るね!』
驚いている二人を無視して、とにかく、学校に向かって走る。
さっきヒナちゃんたちが言っていた事が、本当だったら。もしかして、三ツ谷も…。
『う、わっ』
「ってぇ、ってお前…」
『み、三ツ谷!』
「…ったく、ちゃんと前見て走れっつの。あとお前な、部活中に人呼んどいて帰るやつがいるかよ」
『三ツ谷!血、飲ませて!』
「ばっ!だから、んな所でっ、」
『は、やく!』
「〜〜っ、こっちに来い!」
三ツ谷に腕を引っ張られる。
たまたま三ツ谷の家の近くだったから、そこに向かっていることがわかった。今は、マナルナちゃんは学校だし、誰もいないから?
「ホラ、てきとーに座れよ」
『…血』
「ったく、息つく暇もねーのな。ん!」
足を立てて座る三ツ谷は首を曲げて、差し出すように私に向ける。私は、早く、早く確かめたくてその綺麗な首筋にガブリと噛み付いた。
『んっ…、んっ』
「っ、」
『…ハァ、やっぱり。あま、い』
「………」
甘い。いつも通り三ツ谷の血は本当に甘い。
『もしかして、三ツ谷…、私のこと?』
「…はぁー。やっとかよ」
『え?』
「気付くのが遅せぇんだよ、お前は」
三ツ谷は呆れた眼差しを私に向ける。
もしかして本当に?でも、それにしては信じるに無理なことがたくさんある。
『だって、いつも嫌そうにしてたじゃん。ユズハには優しい顔して、私には…』
「ユズハ?ダチだから関係ねーだろ。嫌そうにってのは…まあ、あるけど」
『嫌そうにしてたのは、私のことなんて嫌いだからでしょう?』
「違げぇよ。…好きな女に、血ばっか強請られて、嬉しいと思うヤツとかいんのかよ」
『っ!!』
「たまたまオレの血が美味かっただけで、生きていく為のエサでしかないんだろ?」
『ちがっ、』
「じゃあ言えよ、どう思ってるか」
三ツ谷がグッと距離を詰める。いつもと立場が違うように、両手を掴まれて逃げられない。
『っ、』
「いい加減、認めろよ。ナマエ…、」
そんな縋る様な目で見られたら、
『………っ、三ツ谷のことが、好き』
「……っ、ああ、オレも好きだ。もうずっと前からな」
『う、そ…きゃ!』
惚けていると、三ツ谷に押し倒されて、あっという間に三ツ谷と天井が上に来る。
『み、つや』
「今まですげー我慢したんだ。美味しい血をやったご褒美、貰ってもいいだろ?」
『ご褒美、って…』
「一々聞くなよ、わかんだろ。今から何されるか…。」
『っ、』
「俺のことも気持ちよくさせて?ナマエ…」
耳元で聞こえた三ツ谷の掠れた声。それを合図に無我夢中で愛し合った。
いつもは私が三ツ谷を食べているのに、この時ばかりは吸血鬼ではない三ツ谷にぜんぶ食べられた気がした。
fin