01




お前は天から落ちた明けの明星、曙の子よ






「なんだ?それ」
「有名な一節、?」


振り向いた彼は惚けた顔をしていた。ストライカーは風を切って進む。寒さは肌を刺すようだった。


「エース、寒くない?」
「おれに聞くことかァ?」
「あっためてって遠回しに言ってみたの」


エースに初めて会ったのも、こんな気候の冬島だったことを覚えている。自身の恩人は、彼の弟の恩人でもあったらしい。挨拶に対して垂れ流しの覇気や抜きかけた剣を物ともせず、海賊にしては妙に礼儀正しく頭を下げた。そんな彼は同じような年齢の割に大きく見えた。
三日三晩続いた宴の中で、同じ人を恩人とする彼の弟の話を、耳にタコができるほど聞かされた。赤い髪の恩人が、そこにはない左腕を撫でるようにして心底嬉しそうにしていたのを覚えている。

いつの間にか敬愛する白ひげの親父さんのマークを背にしたエースは、モビーにお邪魔すると照れ臭そうに迎え入れてくれ、お互いのたくさんの話を語り合ったものだ。

そうした長い付き合いであるエースがティーチを追ってグランドラインを逆走中だと耳にした数日後のことだった。件の彼に、偶然出会ったのである。とある街で、食事中の突然死という稀有であり見知ったような噂を耳にして飯屋を覗けば彼がいたのだ。
恩人の元から出た旅にも当てがなくなってしまっていた今、彼に誘われるままに、小さな船に2人揺られてここに至る。

人より体温の高いエースと身を寄せ合っても、身体は冷えた。安定した気候が次の島が近いことを知らせてくれる。目的地はやはり、冬島のようだ。
穏やかな波の音をBGMに進めば、薄らと島の影が見えてくる。偉大なる航路なら何処にでもあるような不思議な形の島だった。


「お、でっけェ山があるな」
「本当だ。…空まで届くかな?」
「行ってみりゃ分かるさ」


ニヤリと笑った彼は、ふわりと頭を撫で、2番隊隊長としての落とし前をつけるべく、岸へストライカーを停泊させるや否や情報収集へ飛び出していった。

件の黒ひげに滅ぼされたばかりの、まだ名前のない国はやけに静かで穏やかだった。見渡す限り真っ白な景色だったが、今日は雪は降っていない。



ロベールの街はだいぶ復興しているようだ。飯屋も普通に営業している。

街の人々からの情報によれば、あの山はドラムロッキー、標高は5000mらしい。頂上には城があるのだという。黒ひげから尻尾を巻いて逃げた王の城、そして今は"魔女"が住んでいる、と。忌まわしそうに過去の王を語る口振りとこれからの復興に嬉々とした街人たちの様子を見れば圧政が敷かれていたことは想像に難くない。

見上げればうっすらと城の影が見える。




「飛ぶか」

するりと背中から両翼を生やして、上空へ。




あっという間に着いた頂上の魔女が住むという城は白く美しかった。その前で立ち尽くしているとギィ、と音を立てて開いた扉の奥で、ぎょっとして瞬いているたぬきのような生き物と目が合う。慌てて走り出す様子を見送って、上を仰ぐ。

何故かそこにある海賊旗のさらに上へと目をやると雲も、何もない空が広がっていた。
しばらくそうしていると、極寒の中、臍を出した"魔女"と、不器用なのか身体を隠すこともできていない謎の生き物。アンバランスな組み合わせでが城の前に立っていた。エースはきっと面白がるだろう。

5000mの山の頂上で、さらに上空を見上げる。空っぽの空は求めていない。

魔女はこちらの顔をジッと見て、何か思い出したかのように目を見開いた後、ひとしきり大きな声で笑う。背中の翼からはらりと1枚落ちた灰色の羽根を魔女は、拾いあげた。



天使・・はやっぱり空に住むのかい?」



ニヤリと笑う魔女に、さあ、と首を傾げれば、魔女は城に入るように促した。ふわふわの生き物にも声を掛ける。



「ドクトリーヌ!こいつ翼が…!知ってるのか?」
「なぁに、お前と同じ悪魔の実を食っただけさ。そうだろう?」
「同じ…?あ…」




「ヒヒッ、天使のエリー、だろう?」




どうやら素性は筒抜けのようだ。目の前で愉快そうに笑いを漏らした魔女はさっさと城に入りな、と急かすのであった。




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