03


「エース」


白銀のロベールの外れ、少し寂しげな様相の街から歩いてくる人影、馴染まないテンガロンハット。少し萎れた手配書を眺める彼は笑みを浮かべて、それを差し出してくる。


「伝言を残して来たんだ、街の人に」
「…それは」
「あァ、やっと来やがった」


手配書にはそぐわない眩しい笑みを讃えた少年。温かい眼差しとその声は、赤い髪の恩師と何故か重なった。モビーで出会う度に嬉しそうに幼少期を語るエースも、東の海に思いを馳せるシャンクスも、何度も見てきた。


「アラバスタで、少し待つぞ」
「ルフィくんの勧誘でもするの?」
「それもいいかもなァ」
「あんまり希望は無さそうだけど」
「そうだろうなァ」


家族。生まれに暗い思いを背負った彼にとって弟や親父さんどれだけの救いなのだろう。


「お前は?」
「ん?」
「エリー、家族になろう」


眼差しは熱く焼かれそうなほど真剣で、つい目を逸らしてしまう。真っ直ぐに、この澱んだ瞳に注がれた視線は少し痛い。


「なァ、親父も皆もお前のこと待ってるんだ」
「エース、それ…」
「なんだ?」
「プロポーズに聞こえる」
「は…、はァ!?ちがっ、バカ!」


頬を染めながら、誤解だけどそうじゃなくて、と弁明を始めたエースは何やらもごもごとしながらストライカーを発進させた。頭をわしわしと乱暴に撫でて来た。

家族になろう、なんとまどろむ心地いい響きなのだろう。まるで自分が望まれているように錯覚してしまう。
家族というものを渇望する心は同じ、自身の血を恨まれ恨む気持ちは同じでも、決定的に、エースと私は違うのだ。



"神様、あの子を消して…!跡形もなく…!!"



不意に蘇る記憶に身を固くすると、エースは後ろから抱え込むような形で私の背中を包み込む。彼の背中の誇りはとても綺麗だ。今では制御を覚えできる限りしまい込んでいる自身の醜い翼は、家族を断ち切りボロボロに傷をつけるものだった。違うのだ、彼と私は。優しい彼は今も家族の為にとひとり旅に出ている。眩しくて仕方がない。


「モビーに乗るって言ったらシャンクス怒るよ」
「隊長全員で挨拶に行くからいいんだ」
「こわいよ?戦争?」


それでもいいさ、と白い歯を見せて笑う。ぬるく溺れてしまいそうなまどろみを必死に振り払おうと己の心に刻んでおく。


「そういえばさっき魔女と喋るトナカイに会ったよ」
「なんじゃそりゃ」


ぽかぽかとした体温を感じながら、エースに背を預ける。少し肌寒い風を感じながら海を漂う。








つい先程までたわいもない話をしていたと思えばいつの間にか肩口に頭を預けぐっすりと寝ていたエース。
彼の少し高めの体温を感じる背中にじわりと汗が滲むのを感じた時、広大な大地の影が地平線に浮かぶのに気づいた。


「エース、起きて」


眠たげな瞳がパッと開き、輝く。彼はぐんぐんとストライカーのスピードを上げた。島が近づきじりじりと暑さが身体に纏わりつくのも物ともせず、岸に船をつけるや否や走り出そうとするのを抑える。


「宿取っとくから、ビブルカード辿って来てね?」
「おう!」


颯爽と走り出していくエースはきっとご飯でも食べに行くのだろう。"宝払い"で。飲み屋や飯屋は情報収集には手っ取り早い。自身も幾度となくそうした方法を使って来た。

私も街で宿を探しながら、何か、手にしなければ、聞きにいかなければ。とにかくこの辺りの伝承、地学、気候、何でもいい。少しでも繋がるヒントが欲しい。今はかけらもこの手に掴めていない。





"空島・・ロヴア"、故郷ふるさとへの手掛かり。





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