「カナちゃんー!!いたら返事してー!!」
急いで服を着替え温泉から走り出した。
乾かす暇もなかったせいで髪から落ちた水分が汗と混ざってうなじを伝う。
心底気持ちが悪い。
早く___早くと気持ちばかりが先走り足元がもたつく。
わずかに残ったカナちゃんの痕跡を追いかけ、森の中へ入ったはいいものの、一向に姿は見つからない。
気配を探ろうにも妖怪の住処になっているこの森の中じゃ雑音が多すぎてそれも不可能だ。
真っ暗な森の中にうっすら灯りが見えた気がした。見間違いじゃない。
きっと懐中電灯か何かだ。
草木をかき分けて、光の方へ向かっていくとそこにはカナちゃんとその他の中で眠るつららがいた。
あっ羨ましい…!じゃなくて
「薫ちゃん! どうしたの!?」
「聞きたいのはこっちだよ! 怪我ない?大丈夫?」
「わ、私は平気」
けど……と続けたカナちゃんが目線をやったのはつらら。
カナちゃんじゃとても自分と同じくらいの体重の、それも気絶している人間をここまで運んでこれるとは思わない。つららは怪我をしているけどカナちゃんに怪我している様子は見当たらない。ましてや、ここらへんには戦闘の痕が見当たらない。
ということは、
「誰かにつららを任されたの?」
私の言葉にカナちゃんは首を縦に振る。
「あの方が来て……、あの方が及川さんを頼むって……!」
あの方って誰だ。それを聞こうとしたが、パニック気味のカナちゃんに質問したらさらに混乱させてしまいそうだと思い聞かずにおいた。
次に気絶しているつららの方に目をやる。見えないようにしているし、止血がわりに凍らせているが足を貫かれている。
即死するような怪我の状態ではないがこのままにしておくにはあまりに痛々しい。
少し力を込めて、つららの足の甲を片手で触った。
……。
少しずつ氷の下の傷は塞がっていく。元の雪原のような肌色に戻ってから力を緩めた。怪我の治癒とかは初めてだけど、なんかできた気がする。よし!
代わりにツキンと痛む足の痛みは「どうせ治る」と無視した。
「……そのメガネは奴良くんの?」
「多分そう…階段に落ちてたの…多分まだ山の中で…妖怪とかに襲われてたらどうしよう……!」
「私が探してくるよ。カナちゃんはここでつららをお願い」
私の言葉に答える代わりに笑みを浮かべるカナちゃんだったが、どこかぎこちなさを感じた。カナちゃんから離れて階段を駆け上がる。痛む足首を引き摺りながら、されどなにかに惹かれ階段を一歩一歩踏みしめる。
視界が白く染まる。
直後、地響きが鼓膜をつらぬいた。
相当近くに落ちたのだろう。
水中に落ちた時とは違う独特の浮遊感に心臓が不思議な脈打ち方をした。
唸るような雷鳴が続き、周囲の空気が張り詰める。
「なに……?」
階段を上がった方から妖気のぶつかり合いを感じる。凄まじい意志と意志のぶつかり合いだ。
このままこの場を動かない方がいい。それはわかっているのに身体は言うことを聞かず、階段を一段ずつ上がっていく。
やがて最上段にたどり着くと古びたお堂が姿を現した。この山の本堂だろうか。中から数人______といっても妖怪だが、の気配がした。
そっと中を覗く。
「……?」
どういう状況だ、これ。
お堂の中には倒れた牛鬼さんと鴉天狗三兄弟、それからあの白髪の妖怪がいた。お堂の中は数多の切り傷でボロボロで、話らには折れた刀が刺さっている。
激しい戦闘の末にあの白髪の妖怪が牛鬼さんを倒した、そんなふうにも捉えられた。
「…あんた、なんなの…? なんで牛鬼さんが倒れてるの?」
「……牛鬼を知ってんのか」
牛鬼さんを下したということは白髪の彼が敵かとも思ったが、牛鬼さんと同じ奴良組の鴉天狗たちにが、白髪の妖怪に対し敵対の素振りを見せていない。
状況が混乱を呼ぶ。
なぜ、という言葉が答えを探して脳内を駆け巡る。
「そんなの、お前に教えるわけない! 意味が…意味がわからない! それに、孫…奴良リクオはどこだ!? もしかしてお前が……」
わたしが彼の名前を出すと白髪の妖怪は眉を顰めた。そして、後ろに回り込まれ___
「へ!?」
わたしが簡単に背後を気取られるなんて。
煙のように姿を変える彼の手のひらに覆われ視界が暗くなる。不思議な眠気に襲われ、抗えず意識を失った。
「…っ、くそ……」
意識を失う瞬間、なんとなく彼が愛おしそうに瞳を細ませた。
← 戻る/トップ →