蟷螂1
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吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 高校生 / 女体化
※大谷さんのアイデンティティーが言葉使いにしかない状態。しかも1・2話はそれもないです。
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「**! 帰りにカラオケに行かないか!」
ホームルーム後のざわざわとした騒がしさを物ともせず、一際大きな声がそう吉継に呼びかけた。まったく、一度死んだぐらいではこの煩さは治らぬか、と吉継は心中でぼそり、呟く。
「**?」
「ああ、行こう」
一瞬とは言え、気をそらしていたことに対して、心配そうに首を傾けた家康に、吉継は何事もなかったように笑ってみせた。
――この男が、三成を殺したのだ。
実際のところ、その場面を直接目にしたわけではない。吉継自身はその前に、本多忠勝によって命を落とした。この男の、忠臣である。
よって吉継にとっても、家康は自身の仇ということになるのであるが、けれども不思議なことに、それで彼を恨む気持ちは欠片もなかった。あんなに疎んだ眩しささえも、もはやどうでもいいことだ。
ただ、三成を殺めたことだけが、吉継にこの男を憎悪させる。
今は戦国時代ではない、いかなる理由があろうとも人一人殺せば罪になる時代である。吉継とてそれはわかっているし、この時代に生を受けてからというもの、辺り構わず繰り返される命の尊さだとか、殺人への忌避感情だとかに、多少とも影響を受けていないとは言い切れない。
前世であれば、家康を殺すことに対してどういう罪悪感を持つこともなかった。その存在を煩わしいと思っていたし、それに何より、三成がそれを望んでいたからだ。
玩具をねだる子どもに望む物を遣るように、とは喩えが過ぎるが、三成を生かす為ならば、吉継は家康の首一つぐらい何をしてでも与えてやろうと思っていた。人を騙ることも、その命を奪うことも、三成の為ならばどうということはない。
他人に不幸を撒き散らすことに快感を覚えなかったと言えば嘘であり、実際、吉継自身はそれが自身の望みであると疑いもせずに天下分け目の大戦に臨んだのであるが――本当は、そんなことは三成を前にすれば、どうでもいいことだったのだ。
三成が生きていれば。満足だと笑っていれば。
それだけで良い。その為なら吉継はなんでも出来る。
三成は吉継にとっての免罪符だった。
三成のいない今生でも、やっぱり吉継は三成の為に生きている。
鎌を研ぎ、首をもたげ、いつでもその首を刈れるように。その首を刈りとる機会を見逃さぬように。獲物を狙う蟷螂の様に、じっと家康の傍で息を潜めている。
家康は気づいていない。気づけない、筈だ。彼は病に冒されていない吉継の顔を知らないし、嗄れる前の声も聞いたことがない。彼が知っているのは、包帯で全身を覆い隠し、不気味な声で世の中を嘲笑う、死にぞこないの姿なのである。
しかし今、家康の前に立つ吉継の肌には、瘡蓋どころかにきび跡の一つもない。変声期を迎え終わった喉からは、低い穏やかな音を放ち、あの独特の、引っ掛かったような笑い方は今や鳴りを潜めている。
われ、とも言わず、ぬし、とも言わぬ。
同情や憐憫こそ表さぬが、他人の不幸を喜びもせぬ。
吉継は、普通の男子高校生に擬態している。
「昔、**によく似たやつを知っていた」
いつの間に戻って来ていたのか、机の横に立っていた家康が何か懐かしむように、目を細めて吉継を見ていた。
「……そうか」
「まあ、お前みたいな無口じゃなかったんだがな! いや、むしろ口が回りすぎるくらいだったなぁ」
何が面白いのか、ひとしきり笑うと、家康は再び吉継をカラオケに誘った。吉継はなんでもない顔をして、その誘いに再び乗る。
本当は、気づかれているのかもしれない。
吉継がこんなにはっきりと覚えているのだ。家康に記憶がない訳がない。もし記憶があるとすれば、家康は吉継の何倍もの人生経験を抱えていることになる。
狸芝居はお手の物か。
それでも吉継は、鎌を研ぐ。首をもたげ、いつでもその首を刈れるよう、息を潜めてじっとしている。
ひらひらと舞い飛ぶばかりの蝶では、三成を守ることは出来なかった。
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2011/01/22
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