蟷螂2

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吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 高校生 / 女体化

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 帰宅する同級生と入れ違いにして、教室に入ってくる二人組があった。
 なにやらここまで言い合いをしながらやって来たようで、急にきっ、とこちらを向くと、
「家康! マック行かねぇか?」
「新しくできた甘味屋に行くでござる!」
 競うように、口を開いた。
 息のあったところを見せつけた二人は、またもや互いをぎりぎりとにらみ合い始める。前世の真田より、独眼竜は好敵手である、と聞いてはいたが、今や単なるケンカ相手である。
 呆れるしかない吉継が横を見やれば、家康もまた、顔いっぱいに苦笑いを浮かべていた。
 今年この高校に入ってきた事で再会を果たした二人は、こうしてよくじゃれているのだが、周りを省みることがないのが、頭痛の種であった。しかも、自分たち以外にも、前世での知り合いがいるとわかったのが、なお二人をはしゃがせる原因となっている。
「耳障りぞ、真田、伊達」
「お前らもよくやるなぁ……」
 眉間にシワを寄せながらも、無視して帰ろうとはしない辺り、知将も丸くなったらしい。それとも、逃げ出すそぶりを見せるが早いか、後ろの大男にひょいと捕まえられるのに飽きたのだろうか。
 そういえば、二年に上がってからというもの、元親の肩に担がれる元就の姿をめっきり見ていない。
「毛利殿っ! 毛利殿は甘味屋の方がいいでござろう?!」
「Shit! それはズルだぜ、真田!」
「ズルではござらぬ! 多数決、というものでござる!」
「Ha! いい度胸じゃねぇか。ちょっと廊下に……」
「これからカラオケに行こうかと話していたんだよな! なぁ、  ?」
 このままではまた教師に土下座することになりそうだと思ったのだろう、あわてて声を張り上げた家康が、助けを求めるようにアイコンタクトを送ってきた。
 幸村と政宗のケンカの巻き添えで、壁に穴があき、窓ガラスが割れ、その場に居合わせた吉継たちまでも、教師の説教を三時間も聞くはめになったのは記憶に新しい。
 本人たちにとっては、遊びも同然というから始末が悪い。現世に生まれ落ちてから、十何年も経っているのだ。いい加減、力の使い具合を覚えても良いと思うのだが。
 おかげで、幸村と政宗は、まだ入学して半年も経っていないというのに、教師達から目をつけられている。二人が教師にどう評価されようが、吉継には関係のないことだが、その二人がよく周りをうろちょろする所為で、家康にも教師の目が向くことは困る。
 まさか、学校でその機会が訪れようとは思わないが、念には念を入れておくに限る。
 それはもちろん、家康本人に対しても、だ。
「あぁ」
 言葉少なにうなずくと、家康は目に見えてほっとした表情を浮かべていた。対して幸村と政宗は不満そうな、しかし少し安心したような顔であった。本人たちにとっても、この前のような事態は避けたかったらしい。
「そうでござったか……なら、今日はカラオケでいいでござる」
「そういう話なら仕方ねぇな。お前らも行くだろ?」
 政宗の問いに、当たり前よぉ、と答えた元親と、多分、拒否権はないのだろう、眉間にシワを寄せたまま頷きもしない元就を、吉継は黙って見比べた。
 前世ではやはり、彼らも命のやり取りをしていたのだ。だというのにその間に、わだかまりを見すかせない。

 もし、今の世に、三成が生まれ変わっていたら、という想像を、吉継はしないことにしている。
 ――生まれ変わった三成が、家康の命を望まないとしたら。
 吉継は何度も繰り返したもしも、から目を背け、自らも学校を後にする為、ようやく椅子から腰を上げた。

「……刑部っ!」

 もしも、が真になったのは、それから10分も経たない内のことだった。

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2011/01/23

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