御堂の灯1

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三吉三 / 妖怪パロ

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 これは吉継がまだ紀ノ介と呼ばれ、寺小姓の身であった時分の話である。

 吉継は幼い頃より、行儀見習いの為に寺へと入れられていた。この頃の武士の子というものは、大体のところ、そういうものに決まっていたから、寺には吉継以外にも同じような素性の小姓仲間が大勢預けられていた。吉継はそのどれもと仲がよかったが、逆を言えば、友と呼べるような者は一人もいなかった。
 ある晩のことだ。和尚が山向こうに所用で出かけたというので、小姓供は皆、何か普段にはできないことをしようと法堂に集まってきていた。もちろん、吉継の姿もそのうちにある。吉継は歳のわりに落ちついたところのあった子どもであったから、小姓供の企みにはあまり興味を持ってはいなかった。いわゆる、付き合い、というものでこの場にいたのである。
 吉継の隣には佐吉という名の小姓が、頭をふらふらとさせながら座っていた。この子どもは吉継より一つ年下で、どういうわけか吉継によくなついていた。利かん気の強い佐吉は吉継とは正反対に、小姓仲間のどれとも仲がよくはなかったが、吉継だけには花のような笑顔をよく見せた。吉継には佐吉にこのようになつかれる理由がさっぱりわからなかったが、それでも悪い気はしなかった。何より、佐吉は色の白い、美しい顔をした子どもで、吉継は佐吉の顔が好きであった。
 こくん、とまた佐吉が頭を揺らす。そんなに眠たいのならば、部屋に引き取って寝ていればよいだろうと思うのだが、そう言ったところで聞かないのは容易に想像がついた。どんな訳か、佐吉は決して吉継より先に眠ったりはしなかった。床に入っていても、きっと吉継が来るまでは起きていて、おやすみを言ってから眠るのである。
 いっそ佐吉を連れて、吉継も寝間に帰ろうか、そう考え出したところで、周りの小姓供が、ぱっ、といっせいに立ち上がった。順繰りに、小姓供の中では年かさの、自然まとめ役になっている小姓の下へと行っては、どうやらクジを引いているらしい。吉継は傍らに立っていた小姓の袖をとらえると、事の次第を問いかけた。
 普段から愛想を振り撒いている甲斐あって、なにが起きたかはすんなりと知れた。吉継が佐吉にばかり気をとられている間に、この好奇心と体力ばかりが有り余った童供は、肝試しをすることに決めたらしい。

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2011/05/29

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