御堂の灯2

*

三吉三 / 妖怪パロ

*

 肝試しといっても、なんのことはない。二人一組でクジを引き、境内のはずれにある御堂の格子にそれを結わえ付けて帰ってくる。ただそれだけのことなのだが、この御堂というのがまた、曰く付きの物であった。
 源平の頃に死んだ某という貴人の悪霊を封ずるだか、宥めるだかの目的で建てられた御堂と言い、けれども外見は廃屋にほど近く、坊主供でも本当のところを知っている者は一人もいない。その上、御堂に行くには墓場を通って行かねばならず、日の高いうちでも、好んで人の近寄ることはなかった。
 つまりは、肝試しなんぞという馬鹿らしいものをやる為に、わざわざあつらえたような場所である、といってよい。
 礼を言って小姓を離してやると、吉継はヤレヤレと天井を仰いだ。まったく、呆れた。こんな夜更けにわざわざ足場の悪い道を通って、あばら屋同然の御堂なんぞを拝みに行かねばならぬとは! 頭の悪い小姓供に腹の中で文句を言いながら、吉継は後ろを振り返る。二人一組というのならば、吉継は佐吉と組をくんでやらねばならぬだろう。きっと吉継とでなければ、佐吉は一人で行くはめになろうから。
「ぎょうぶ」
 先までふらふらと頭を揺らしていた筈の佐吉が、ぱっちりと目を開いて吉継を見つめ返していた。金緑の大きな瞳は、美しいがどこか妖しくて、吉継以外の小姓供はみんなこの瞳を気味悪がる。けれども、吉継は佐吉の目を見返して、ふわり、と相好をくずしてやった。
「起きやったか、佐吉」
 うん、とまだ舌の足らぬ佐吉がたどたどしく頷く。
「きさまも行くのか?」
「そうよなァ。行かねば、他の者がうるさかろ」
「なら、わたしも行く」
 佐吉がぴょんと跳ねるようにして立ち上がった。この子どもは不思議なことにまるで鞠のように身軽で、体は小姓供の間でいっとう小さいくせに、走らせればいっとう早かった。
「遊びに行くのではない、御堂に肝試しに行くのだぞ。たたられてもわれは知らぬぞ?」
 ふといたずら心がわいて、吉継はヒヒヒと笑ってやった。佐吉は年上の小姓を相手に喧嘩をやるような子どもであるが、狐狸妖怪のたぐいを相手にするのでは、またはなしが違うだろう。ここらで高すぎる鼻っ柱を少し折っておいてやるのも、友誼というものかもしれぬな、と吉継は思った。

*

2011/06/09

*

+