蝶嫁御9
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三吉 / 女体化 / 豊臣軍
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「まずその包帯が気に入らん」
躊躇も戸惑いも、こちらに対する気遣いも、いっさいがっさいを無視して三成は言った。
「夫婦というものは、互いに信じあうものではないのか。そんな風に隠されて、信頼などできるのか」
吉継とて、好き好んでこのような姿をしているわけではない。けれど、包帯は吉継の鎧だった。
病に崩れた肌に触れたくないのではなく、触れさせてやらぬ。目にしたくないのではなく、目にさせてやらぬ。詭弁と自分でもわかってはいたが、それでも己の自尊心を守る為には必要なことだった。
幸か不幸か、父も母も、体にぐるぐると布を巻きつけ出した娘を見て何も言わなかった。先代の主君は吉継に興味のないようであったし、当代もまた、吉継がどんな形をしようと気にしない風であったから、吉継もまた好きにしていた。
……だが。
「これはこれは、すみませなんだ。しかしこの通りの醜さゆえ、お目汚しになろうかと思いましてなァ」
夫が言うならば、我は通せぬ。仕方なしに吉継は右手の包帯だけをほどいて見せた。子どもには刺激が過ぎようが、見たいと言ったのは三成である。存分に後悔するがよい、と放った右手であったが、後悔したのは吉継の方であった。
「……なんぞ珍しゅうございますかえ」
布団の上に投げ出された右手を、まじまじと眺める三成に、居心地が悪くなったのだ。言って吉継は自身の失言に唇をかんだ。珍しいに決まっている。このきれいな童には、吉継の汚い肌がさぞや珍しく見えるだろう。
案の定、ああ、と三成は、右手から目を離さないままうなずいた。
「こんなに白い肌は見たことがない」
「……左様で」
「触れてもいいか」
「好きになさるが良かろ」
旦那さまの妻でありますゆえな、半ば投げやりにそう言いやる。子どもはわからぬ。やっぱりわからぬ。何を言い出すか予想がつかぬ。
「では、触れるぞ」
宣言のあと、小さな手が吉継の右手をふわりと持ち上げた。少しだけ、体がゆれたのは、なんのことはない、三成の肌の温度が思ったよりも低かったからだ。吉継とて高い方ではないが、三成もまた、子どものくせに吉継と同じような温かさをしていた。
まるで壊れ物でも扱うようにおしいただいて、ためつすがめつ眺めやる。
そのうちに、ふと、視線が交錯した。
愛想ばかりの微笑みを浮かべた吉継に対して、三成の反応ときたら酷いものだった。それまで持っていた手も離して、ぷいと向こうをむいてしまう。これにはさすがの吉継もむっときた。
信じるも信じないも、目も合わさぬ夫婦があるものか。そう言ってやろうと口を開きかけた、その時。
――白銀の髪から覗く、耳が真っ赤に染まっている。
「ヒ……ヒヒッ」
なんと初な旦那さまであろう。目を合わさぬのは、忌んだ訳でも疎んだ訳でもなく、ただ恥ずかしがったからだとは。
「な、何を笑っているっ!」
「すみませぬなァ、旦那さまが、あんまりかわゆらしいゆえ」
言うと、やはり耳だけがかっと赤みを増す。ほんにかわゆらしいと、吉継は年の離れた夫に向かって、笑んでみせた。
「われは旦那さまを裏切りませぬ。絶対に」
そう言ってまた吉継は笑う。嘲笑でも挑発でもなく、ただ嬉しくて笑うのは、久しぶりのことだった。
いつかはこの子も吉継のことを、余人と同じく疎む日が来よう。けれど、その日までは、この美しい瞳が世俗に曇る、その日までは、きっとこの子どもを裏切るまいと、吉継は思った。
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おわり
2011/03/30
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