蝶嫁御8

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

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 一方、大阪城内に与えられた三成の自室へと移った吉継は、真ん中にぽつんと一組の布団がのべられた以外何もない室内に、珍しく戸惑いをあらわにしていた。
 ハテ、ここはこの童の室であったはずだがなァ。
 誰かが部屋を間違えて布団を敷いたのか。とはいえ、部屋の主である三成が自分の部屋を間違えるとは考えづらい。綿帽子の下から、ちらりと隣の三成をうかがうと、大して驚いた顔も見せずにすたすたと部屋の中央へと歩いて行く。吉継はあわてて襖を閉めきると、その後を追った。
「座れ」
「……あい」
 ここにきて初めて、声を聞いた。
 顔も合わせずぶっきらぼうに投げつけられた言葉に、吉継はわずかに眉をしかめる。宴の間も一言も口をきかなんだのは、緊張の所為かと思っていたが、どうやら違うようである。
 ぬしもか、と吉継はぼそり呟いた。
「ぬしも、とはどういう意味だ?」
「何、独り言よ、ヒトリゴト」
 ヒヒヒ、と笑えば、目の前の幼い顔がますます険を帯びてひそめられる。
「気に入らん!」
 声変わり前の甲高い子どもの声が、闇夜を裂いた。
「気を悪うしたか。すま」
「吉継、貴様、私を裏切るつもりか!」
「……はァ?」
 意味がさっぱりわからない。いくら賢そうな顔をしていても、結局、子どもは子どもである。
 吉継は故郷の主君、大友宗麟を思い浮かべた。
 何がそんなに良いのだろうか、おかしな宗教に傾倒するあの子どもの考えも、ついぞ理解ができなかった。つまり、子どもというのはおしなべて訳のわからぬ生き物であるのだろう。
「旦那さまは、なにゆえ、われが裏切ると申されるかえ」
 できるかぎり優しげな声音を作って、吉継は聞いてやった。子どもの機嫌をとらねばならぬとは情けないが、もはや吉継に帰る場所はない。大友に帰っても誰も咎めるものはいないだろうが、けれどしかし、19にもなってやっと嫁入り先が決まったというに、そうそうに出戻ったとなっては、狭い肩身がますます狭かろうに違いない。
 とはいえ、いくら今さら三成の機嫌をとったところで、親代わりの二人の不興を買ったとなっては、もう遅い話なのであろうが。
「それは貴様が嘘を吐いているからだ」
 あくまでも視線を逸らしたまま返された言葉に、吉継はぴくりと肩を震わせた。

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2011/03/29

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