祟り神と狐1

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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

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 現世に産まれ落ちてて三年も経たぬうちに、自分は周りに希望を抱かせずにはいられぬ人間なのだということを、家康は悟った。
 彼を神童と他人は呼んだし、実際彼はそう呼ばれるに相応しい能力を有していたから、家康にとって、己に向けられる賛辞は受けるにやぶさかではなかった。彼が真実、年端もいかぬ子どもであった時に受けた三河一国を担う重責に比べれば、泰平の世である現代において家康が受けるのは、期待とも呼べぬような物だった。
 学校のテストで良い成績を納めるだとか、教師から好感を得るだとか、友人を多く持つだとか。
 他人から見ればまだまだ紛れもない子どもである家康に期待されるのは、所詮はその程度のことだった。

 ――しかし、そう気づくには、家康には足りないものがあったのだ。

 両親が寝静まったのを確認してから、家康はそっと自宅を抜け出した。さわぎを起こすつもりはない。夜が明ける前には帰ってくるつもりだった。
 小学生の家康にとってこんな真夜中に、ましてや一人きりで外を歩くことなど、初めてのことだ。子どもらしい好奇心と、少しばかりの恐怖を抱えながら、人っ子一人いない夜の住宅街を歩き回る。
 ぱた、ぱた、ぱた、と自分一人分だけの足音が響いて、跳ね返り、また響き消えていく。
 通学路とその周辺ならば多少の土地勘がある家康だが、夜の闇は街から普段の顔を奪いさる。もっとも、はじめからどこへ行くのかもさだかではない道行きだったから、家康が帰り道を見失うことは、遅かれ早かれそうなっただろう、程度のことだった。
 家康自身、見覚えのない住宅がならぶ十字路の真ん中に立っていると、こうなることを望んでいたのか、と思えてくる。
 なにか、心に足りないものがあって。それは、ここにいてはけして手に入らないものだと、自分でも知っているような。

 ぶわり、と風が吹き付けた気がした。

 家康はつられたように風上へ、左へと顔を動かす。T路路の、突き当たり。ぽつぽつと立つ街灯の明かりも届かないそこに、闇の塊がぽかり、とあった。
 ぼう、と光る石の鳥居がかろうじて、そこを神社だと伝えている。
 家康は何かに引かれるように、そちらへと足を向けていた。

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2011/02/16

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