白昼夢の少女 ニューヨークから帰ってきたブルースが祐未とディックを食堂に呼ぶ。一連の事件について報告させるためだ。最初に口を開いたのはディックだった。重傷を負ったらしいが、祐未の血を経口摂取し完治したらしい。 「報告通り『金髪のサイキッカー』は警察病院に入院させたよ。意識が戻らないって聞いたけど」 彼の後で祐未が続けた。 「マフィアのほうは全員逮捕されたぜ。たぶんブラックゲート行きだろ」 ふたりの間に、ブルースがニューヨークへ行く前の固い雰囲気はない。なにがあったかはわからないが問題は解決したようだ。 ディックが口の片端を歪めて祐未を見る。 「ひとりアーカム行きかもしれないって聞いたよ」 「うそ、なんで? だれ?」 「君が話を聞いたリーダーの男だよ。痛めつけすぎたんじゃないの?」 「えーそんなことねぇってー」 子供の関係性というのはわからないものだ。少し首を傾げたブルースだったが、すぐに気を取り直して口を開く。 「その『金髪のサイキッカー』だが、今朝病院で死亡しているのが発見された」 ディックが目を見開く。 「なんだって!? 自殺!?」 「いや、毒薬を注射されたのだと思われる。おそらくネルガル側の口封じだろう」 ロビンが悔しそうに言葉を吐き出す。 「なんだってそんな……くそ、最悪だ……!!」 祐未は一瞬眉を顰めたものの、すぐに平常通りの表情に戻った。頭の後ろで手を組み、背中を壁に預ける。 ブルースは努めて無表情に徹し、平坦な声で言った。 「今後も、ネルガルが祐未を狙うかもしれない。引き続き情報収集を続けるぞ」 彼の言葉にディックも祐未も真剣な顔でブルースを見る。 「了解」 「All right」 サイドキックの了承を聞き、ブルースが食堂を出て行った。ディックと祐未が後を追う。先に歩き始めた祐未を追い越すようにして、ディックが少女の肩を叩いた。 「まあ、またネルガルの刺客が来ても僕らなら平気さ」 祐未が少年を見て笑う。笑顔の端で鋭い犬歯が覗いた。 「おう、頼りにしてるぜ」 祐未が拳を突き出すと、ディックが笑って自分の拳を合わせる。少女が颯爽と歩いて行った。その背中を見送って、ディックもすこし距離を開け歩き出す。 日の光が窓から差し込み、少女の背中を照らしていた。 眩しい。 細い背中を追いかけ、ディックは心の中で呼びかけた。 ――ねえ祐未 君がいつか自分から望んでその白い部屋から出てきてくれることを……僕はずっと待ってるよ 今でもディックはあの真っ白な箱を思い出す。ひとりぼっちの少女のこと。 ――消えた白昼夢の中に、置き去りにしてしまった少女 ――君が強くなる代償として、閉じ込められてしまった小さくて弱い君のこと ――僕がいつか腕を引いて、連れ出してあげなければいけない"本当の祐未" 彼女は今もあの真っ白な箱の中で、ひとりぼっちで泣いているのだろうか。 [しおりを挟む] 目次 戻る |