3「すげぇー! ディック! ふろ! そとふろ! ひひひひひひ!!」 「うさぎ! うさぎのまーくがある! はははははははははははは!! ははははははははは!!」 部屋の中にあるフルバーでさらに酒を飲み、腹がよじれるほど笑った。 「なあでぃっく! あたしらけっこんしたんだよな!」 「そうさ! きみはきょうから祐未・グレイソンだ!」 「祐未・グレイソン!」 あの時の笑いのツボは絶対におかしかった。とりあえず三言目には必ず笑っていた気がする。60年代風レトロモダンなインテリアの中頭がお花畑になったふたりは服を着たままバルコニーのジャグジーに飛び込んだ。 「ふうふってなにすんの!?」 「……なにするんだろう!」 ふっしぎだなぁ! とディックが叫んだ。不思議なのは自分の頭だと今ならわかる。不思議な頭の酔っ払いは、ジャグジーから見える夜景を眺めさらに不思議なことを言い出した。 「あっ! そうだひらめいた!」 酔っ払ったディックのひらめきに良いものはなにもない。それはひらめきではなくシナプスがアルコールに蹂躙された際の断末魔だからだ。 「なに! なにひらめいたの!」 祐未が赤い顔でディックに訪ねる。ところで酔った上での入浴は大変危険である。 男が妻に向き直り、彼女の肩に手を置いた。祐未は不思議そうにディックを見ている。何度も言うが、不思議なのはこの時のふたりの頭である。 「ただいま!」 「おかえり!」 「ちがう! いいかい祐未、きみはぼくのつまになったんだ! 言うべきことはおかえりだけじゃない!」 「えっなに! なになになに!」 「おかえりなさいあなた!」 「おかえりなさいあなた!」 「ふうふっぽーい!!」 「ほんとだー!」 思い出せば思い出すほど取り返しの付かないことをしている。 夫婦っぽいってなんだ。 しかも始末の悪いことに、彼らはそれから五回同じ事を繰り返しては笑った後、今度は配役を交代して五回繰り返し五回笑った。セリフはまったく同じなので、なぜかディックが妻役をやっていたことになる。 酔っ払いの思考回路は、たとえ本人であっても理解不能なのだ。 この頃時計は深夜12時を回っており、夕方あたりから始終笑い転げていた酔っ払いふたりもとうとうガス欠になった。大人しくジャグジーから上がって濡れた服を脱ぐ。 なぜかきっちりと執事に服を渡し、洗濯の手はずを整えた上でバスローブを着込んだ。 「なんだかつかれた」 「だるい」 「これが倦怠期か」 「けんたいきってだるいのかよ」 「そりゃ倦怠期だから」 しかし会話は相変わらずお花畑のままだ。一階のベッドに倒れ込んだふたりは疲れ切っていた。 「もうふうふがやるべきことはあらかたやったんじゃないのか」 「まじか。あたしらもうかんぺきなふうふだな」 「そうだな。かんぺきなふうふだ」 せめてこのまま眠ればよかったのだ。しかし悲しいかな、ヒーロー稼業をしているディックは昔から体力があったし、祐未に至っては超回復能力の持ち主である。 グロッキーになってもすぐ回復してしまう。 「……いや、かんぺきじゃないな」 「……やってねぇな」 「……やってないな」 「やんなきゃ」 「やらないと」 いったい何が彼らをそこまで突き動かしたのか。今となってはわからない。わかりたくもないディックである。 とにかく酔っ払いふたりは一時のテンションに身を任せ、元気に叫んだ。 「セックスだぁああああああああぁあああああぁー!」 ムードもへったくれもありはしない。ふたりしてバスローブを脱ぎ捨て、勢いのまま身体を繋げた。 正直気持ちいいとか痛いとか柔らかいとか、どこをどうやって触ったとか細かいことはなにひとつ覚えていない。相変わらずゲラゲラ笑いながら二階のベッドルームへ移動し、天井の鏡を見てまたゲラゲラ笑った。ディックが祐未を後ろから抱きしめる形でベッドに寝転がり何度か致した。その時も相変わらず笑っていた。 そして本当に体力が尽きて、眠ったのである。 [しおりを挟む] 目次 戻る |