RAGE OF DUST

ビースト:YEAR ONE02


「サイズ大丈夫だったぜ!」

 アルフレッドが硬直した。ディックも口を開けて少女を凝視する。
 彼女が身につけていたのは、ショート丈のブラトップにホットパンツ、ヘッドギア。すべて黒で統一されており、腹部と腕、足がほぼむき出しになっている。コスチュームというより下着に近かった。
 ディックが抗議の意味を込めてブルースを見る。男は平然とした顔で頷いていた。

「全てに特殊なケプラー素材と衝撃吸収素材を使っている。大抵の衝撃や攻撃を防ぐはずだ」

「へぇー、良い感じだぜ! ありがと」

 祐未はこの格好になんら違和感を覚えないらしい。おそらくアルフレッドが再起動して慇懃無礼な毒舌トークを披露するまであと数十秒。ディックが耐えきれず声をあげた。

「ちょっと待ってよ、露出度が高すぎる。なんで腹部も足も腕もむき出しなんだよ」

 ブルースの表情は変わらない。祐未は不思議そうにディックを見ていた。おそらくこのデザインは祐未の要望なのだろう。

「そこらは守る必要がねぇからだよ。あたしが本当に攻撃されてヤベェのは頭だけだ。だから頭にはヘッドギアつけてもらったが、これ以上布面積増やされたって動き辛いだけだぜ」

「そう? 悪目立ちしない?」

「へーきへーき」

 ディックはまだ不安だった。言いたいことも山ほどあったが、本人が気にしていないのではもうなんと言って良いかわからない。アルフレッドは再起動してブルースに物言いたげな視線を送っていたが、やはり祐未が気にしていないのでなんと言って良いかわからず、ため息をついている。
 育ての親に睨まれたブルースはすこし居心地が悪そうだ。小さく肩を揺すった後、テーブルにいくつかのベルトを置いた。

「これが装備だ。こちらも要望通りになっているはずだが」

 言われて、祐未が嬉しそうに飛びつく。

「サンキュー! やっぱ使い慣れてた武器のほうがいいからさ!」

 コスチュームを受け取った時より嬉しそうだ。鼻歌でも歌い出しそうな様子で、テーブルに置かれたベルトを身につけていく。
 まずユーティリティ・ベルト。バットマンもロビンもつけている代物だ。ポーチの中にあらゆる武器や道具が入っている。それから彼女は、ロビンのコスチュームにはないベルトをふたつ手に取った。二丁の銃を収納するショルダーホルスターと、レッグストラップを左右1本ずつ。レッグストラップにはナイフホルダーがついていた。
 つまり彼女の武器は、二丁の銃と2本のナイフというわけだ。
 ディックがショルダーホルスターを覗き込む。

「銃?」

 バットマンもロビンも拳銃を使わない。これで戦えば、相手を殺してしまうかもしれないからだ。彼の疑問を悟ったのか、ブルースが言う。

「暴動鎮圧用のゴム弾を使用している。他にワイヤレススタンガンも使用可能だ」

 祐未も彼に合わせて苦笑する。

「本物の弾は使わねぇよ、流石に」

 ディックが口を尖らせた。

「わかってるけどさ」

「そっか」

 祐未はそれ以上何も言わない。代わりに、刃渡り30cmはあるだろうコンバットナイフを2本、器用にクルクルと回してから足のホルダーにしまった。
 いつもは目を覆いたくなるほど不器用なのに、こういうところだけ所作が流れるように美しい。

「さすがに馴れてるね」

「まあな」

 得意げに笑った少女は、今度執事と目を合わせて飛び跳ねる。

「アルフ! あたしさ、頑張ってくるからさ!」

 彼女はアルフレッドに大層懐いていた。祐未に勉強を教えるのは大抵彼だったし、日常生活のことをいろいろ教えるのも大抵アルフレッドだからだろう。あとは、おそらく食事をアルフレッドが作っているのが大きい。
 要は餌付けされているのだ。
 アルフレッドはディックにも祐未にも良くしてくれる。ブルースの事も大切に思っている。
 だからだろうか。祐未のパトロール参加は反対しているのに、喜んだ祐未を見て微笑んだ。

「……あまり、ご無理をなさいませんように……」

 祐未が元気に手を振った。

「おう! いってきます!」

 ここまでされてはもう何も言えまい。執事はケイブから出て行く3人の後ろ姿を見送り、ゆっくりと頭を下げる。

「いってらっしゃいませ。どうか、お気を付けて」

 祐未が参加する前から、きっと彼はずっと、このパトロールには反対だ。

 どうかお気を付けてという言葉が、どうかご無事で、とディックには聞こえた。
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