夜が来る グラップネルガンをつかってバットマンが街の上空を移動する。マントがはためくも、暗闇に溶け込んでいるため誰も気づかない。 彼に続くようにしてロビンの黄色いマントがはためいた。サーカス出身なだけあって軽やかに空を舞う。ビルからビルへ飛び移った少年が大きく手を振った。 「ビースト! 早く来なよ!」 「わーってるよ!」 ロビンの言葉に叫び声を返し、ビーストもグラップネルガンを構える。銃口から飛び出したワイヤーがビルの端に引っかかった。固定されたのを確認してバットマンやロビン同様宙を舞う。むき出しの腹と手足が夜風に晒されて冷たかった。 病院の窓から漏れる光を頼りに着地点を確認する。 途端、窓の明かりが消えて着地点のビルが闇に包まれた。 「へっ」 驚いて一瞬バランスを崩した彼女は、慌てるロビンの横に無事着地する。ロビンはビーストが着地に失敗すると思ったのか、両の手のひらを上に向けて受け止めるようなポーズをとっていた。 駒鳥がすぐに腕を後ろで組み、仲間を見る。 「よ、よかったよ。バランスくずしたから着地に失敗するかと思った」 「そんなヘマするかよ。これでもお前より目はいいんだ。それよりなんでいきなり停電した?」 ロビンの声には覇気が無い。 「……どこかで送電線でも切れたかな?」 彼らの横で、病院の明かりが点灯した。ビーストが身体をくの字に曲げて建物を覗き込む。 「あ、病院は電気ついたな。ちょっと暗いけど」 ロビンが危ないよ、という言葉とともに彼女の腕を引いた。 「あそこは予備電源があるからね」 バットマンのマントがはためく。ロビンとビーストが蝙蝠に視線を移すと、彼は低い声で言った。 「病院の電力は通常の30%といったところか。このままではもって27時間がせいぜいだろう」 ロビンが腰に手をあて、首を傾げる。 「そこまで長い停電ってあるのかな? 地震でもないのに」 「街を見てみろ。ロビン、ビースト」 言われて少年少女が首を動かす。眼下に広がるのは果てしない闇。走る車のライトだけが不自然に浮かび上がっていた。街灯も信号機も消えてしまったらしく、ほとんどの車が徐行している。幸いまだ事故は起こっていないようだが、時間の問題だろう。 「ロビンの言った通り地震も落雷も豪雨もない。ゴッサムにはふたつの変電所があるが……この様子では、停電はかなり広範囲にわたっているな」 バットマンの言葉を聞いてロビンが眉を顰めた。 「変電所がふたつともなにかあったってこと?」 「そうかもしれない。調査する必要があるな」 ビーストは興味深げに車のライトたちを目で追いかけていた。ロビンが彼女のショルダーホルスターに腕をかけ、乱暴に引き寄せる。 「じゃあ僕とビーストは電力会社のほうを調べるよ」 少女が 「ぐぇ」 と妙な声を上げたが、バットマンもロビンも大して気にしていないようだ。 「ああ。私は念のため警察を訪ねる」 「OK。それじゃあ行こう、ビースト」 「げほっ、fuck……チッ、オーライ」 3人がそれぞれワイヤーガンを構えた。パシュンと小さい音がして、大小のマントが風にはためく。 そうしてあっという間に、自警団は光を忘れた街の中に消え去った。 [しおりを挟む] 目次 戻る |