後日談2「『ビースト』の写真を撮られたな」 彼の言葉を聞いて、祐未が嬉しそうな声を上げた。立ち上がってブルースのすぐ横に駆け寄ってくる。 「マジ? どんな感じ? どんな感じ?」 ディックは顔こそあきれ顔をしていたが、祐未と同様ブルースのすぐ横に駆け寄ってきた。 「喜んでない? どんな写真を撮られたのさ」 新聞に載っているのは、黒い服を着た少女がワイヤーを使い空中を飛んでいる姿だ。バットマンとロビンの姿もすこしだけ映っている。 「街を移動している場面を撮られた。幸い顔は映っていないが、ロジャー・フォードの証言から戦闘スタイルや性別、年齢など割り出されているようだ」 今度こそディックが完全にあきれ顔になった。腰に手を当て、ため息をつく。 「警察はなんでそんな情報を流しっぱなしにしてるんだ」 ブルースが新聞を1枚捲る。 「ロジャー・フォードは傭兵だからな。彼の"表沙汰"にできない仕事の情報を守る代わりに『ビースト』の情報をマスコミに流しているんだろう」 「体の良い生け贄ってことか」 深刻な顔をするふたりをよそに、祐未はどこか嬉しそうだ。 「でもこれでいよいよバットファミリーの仲間入りって感じだな!」 ディックが横目で祐未を見る。 「コスプレ連中に狙われることになるよ」 「じょーとー」 ブルースは相変わらず新聞を読んでいる。 「まあ、危なくなったら僕がまた助けてあげるよ」 「はぁ? そのセリフそのままお返しするぜ!」 「ロジャーに殺されそうになってた君を助けたのは誰だと思ってるんだよ」 「それまであたしはひとりで戦ってたんだっつーの!」 ふたりともブルースから離れ、向かい合う。途中で祐未がマカロンを口に放り込んだ。 ディックが笑って祐未の服の袖を引く。 「まあいいや。ケイブで訓練しようよ。その後僕は学校で、君は家庭学習だ」 祐未はマカロンを租借し終えるまで考え込む素振りを見せた。 口の中にあるものを飲み込んだと同時に、頷く。 「んー……そうするか」 「僕が勝ったら今日一日お兄ちゃんって呼んでくれよ。罰ゲームで」 「はぁ? わけわかんねぇ。それ罰ゲームになんのか?」 「お兄ちゃんって響き、なかなか好きなんだよな」 「じゃああたしが負けたら一週間くらいお兄ちゃん呼びしてやるよ」 「えーうそ! じゃあ絶対勝つ!」 「そんなにやる気出すなよわかんねぇ奴だな!」 「君が勝ったら一週間くらいお姉ちゃん呼びしてあげるよ」 「ちゃんとお姉ちゃんに接する態度で呼べよ」 「君がね」 「ぬかしやがる」 子供たちが楽しげに談笑しながらケイブに向かって走って行く。 新聞を読んでいたブルースが、少しだけ口元をゆるめ食後のコーヒーを飲んだ。 良い香りがする。 いつのまにか、彼の横に執事が立っていた。 「よい朝ですな」 ブルースがまたコーヒーを一口飲む。 「ああ、まったくだ」 久しぶりの心地よい朝だった。 [しおりを挟む] 目次 戻る |