消えたdaydream

這い寄る不吉


 独房の中はひどく冷たい。
 打ちっ放しのコンクリートに囲まれた部屋は薄汚く、格子付きの窓から見える月さえ氷のようだ。深い紺色の夜空からも温度は感じられない。
 巨体の男が冷たい空気に身震いして目を覚ました。
 ロジャー・クサリフ。ジョーカーの一味とともにゴッサム停電事件を企てた男だ。今はブラックゲート刑務所に収容されている。
 彼は這い寄るような冷気に眉を顰めた。

「なんだ、今日はひどく冷えやがる……」

 独り言ちて起き上がり、自分の部屋を見る。
 窓から差し込む月の光から闇が逃げ出し、部屋の四隅に蹲っていた。固まって濃くなった黒い空間。その一角に人影がある。
 ロジャーと目が合うと、その人影は鈴を転がすような声を出した。

「あら、目が覚めたのね」

 若い声。16歳くらいの少女の声だ。
 一歩前に出た彼女の姿が月光に照らし出される。
 青い白い光を受けて輝く金髪は足首あたりまでのストレート。青い目は夜だというのに青空を連想させた。服装は、裾の広がったパステルピンクのフリルジャンパースカートと白いフリルのついたブラウス。頭には白いリボンのカチューシャをつけている。
 刑務所の独房には不釣り合いな可愛らしい服装の少女だ。
 ただし背中に背負う日本刀だけが彼女の印象を異質なものにしている。
 彼女はまるで街中のように自然な素振りで片手を上げ、ロジャーに向かって笑みを投げかけた。
 ただし青空のような瞳にはしっかりと嘲笑が映り込んでいる。

「久しぶりね、クサリフ。こんなところに閉じ込められちゃってかわいそぉ〜」

 声にも瞳同様嘲笑が滲んでいた。
 ロジャーが身体の上にかかっていた毛布をはねのけ声を荒げる。

「セシリア! なにしにきやがった!?」

「あんたがY21を見つけたっていうから、私がわざわざ後始末にきたのよ。仕事増やさないでよね」

 セシリアと呼ばれた少女が腕を組み、ロジャーを見下ろす。大男は忌々しげに舌打ちをした。

「テメェ、相変わらずいけ好かねぇガキだぜ!」

 セシリアならまだY21のほうが可愛げがある。
 するとロジャーの考えでも察したのか、途端セシリアが不機嫌そうな冷たい声を出した。

「ドジ踏んで掴まってるくせに、随分偉そうじゃないのよ」

 少女が細い腕をロジャーに向けた。金色の髪やスカートが風に靡いたようにふわりと踊る。
 セシリアの全身を、青い光が覆った。

 ロジャーの身体も同様の青い光に覆われ、途端大男がベッドの上に蹲る。

「ぐっ、がぁっ……うぅっ!」

 ロジャーは知っている。これが彼女の能力だ。
 ネルガルに所属するサイキッカー、セシリア。
 人の思考を読んだり、洗脳したり、物体を触れずに動かしたりする力を持つ。
 その能力の特殊さ故、ネルガル内でもある程度の権力を有する特例。

 故に少女は多少傲慢に育ち、自分以外の他者を見下す傾向にあった。

 現に頭を押さえて身体を丸めたロジャーに対し、セシリアは平然と言い放つ。

「アンタの記憶、見せて貰うわよ」

 ロジャーに拒否権などありはしないのだ。
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