消えたdaydream

RAGE OF DUST


『おいおい、なんの騒ぎだ?』

 セシリアの脳内に入ってきたのは、大男の視線からみる変電所の風景だった。
 2メートルの巨体はセシリアがいつも見ているものよりずっと遠くまで見渡せる。
 足元にいる少年ふたりと少女ひとりは、おそらくセシリアの視点から見ればもっと大きく見えるはずだ。

 ロジャーが腕を振り上げ、少年ふたりを殴り飛ばす。
 
 どちらも黄色いマントを付けていた。ひとりがもうひとりを庇い、壁に叩きつけられている。
 庇われたほうは顔色も悪いし身体もガリガリだった。セシリアの好みではない。
 
 庇った方はドミノマスクをしていても整っていると解る顔立ちの、おそらくこちらが本当の"スーパーヒーロー"
 ゴッサムだから、たしかバットマンとロビン。そのロビンのほうだろう。

『ぐ……、お前、彼ごと、僕をっ』

 声もなかなか好みだ。凜として美しく良く通る声。おそらくセシリアよりも年下だろう。

『そいつもどうせ最後には殺しちまうんだ。今殺したって問題ねぇさ』

 ロビンがロジャーを睨み付けている。顔をまじまじと観察すると、やはりかなり整っていることが窺えた。
 まだ幼さを残してはいたが、意思の強そうな可愛らしい顔。

『どうせ死ぬなら、いつ死んだって問題ないってか』

 頭上からの声にロジャーの視界が動く。記憶を見ているので仕方が無いが、ロビンから離れてしまったのが残念だ。
 変わりに見えたのは下着のような格好をした女だった。おそらくこれはY21だろう。ドミノマスクをつけている。
 ロジャーの報告ではバットマンたちと自警活動に参加しているらしい。
 つまりロビンと一緒にいるということだ。
 面白くない、とセシリアは思った。
 こんな女がロビンの隣にいる。自分のほうがよほど絵になるはずだと思った。

『ビースト! 殺しはするな!』

『わかってるよ! 大声出すんじゃねぇ!』

 ああ、ほらこんなに親しげに話して。
 武器の取引現場から行方不明になったと聞いていたが、おそらくその時バットマンたちに"保護"されたのだろう。
 仕事でミスをしたあげくこんなに良い思いまでするとはいいご身分だ。

『本当にひとりで戦う気かよ? マトモじゃねぇなぁ。俺はテメェの弱点だって知ってんだ。頭潰せばテメェはすぐに死ぬんだぜ? "ネルガル"はテメェを殺してでも連れてこいとさ』

『潰してみろよ。先にテメェの頭を潰してやる』

 どうやらY21は、理性を保って身体能力を強化する方法を覚えたらしい。
 これは報告しなくてはならないだろう。
 情けないのはクサリフだ。
 1対1で相手の弱点もわかっているのに倒しきれなかった。
 これだから失敗作は困る。怪力だけが長所の男には荷が重すぎたということだろう。

 それでもY21の腹に大穴を開けたのは、収穫といったところか。

『テメェ、その銃ゴム弾じゃねぇか。殺す気でくりゃあまだいくらでも勝負できただろうに、飼い犬ってのは難儀だなぁ?』

『へっ、もう勝った気でいんのか? まだまだ、これからだぜ』

 殺す寸前まで行ったというのに、結局男はY21を殺し損ねた。原因はロビンだ。
 彼はどうやら、軽い爆発を起こしてY21を回収したらしい。

『ビースト! ビーストしっかりしてくれ!』

 腕に抱くのが血ぬれの生体兵器でなければさぞや絵になったことだろう。まさにヒーローに相応しい活躍ぶりだ。
 冷静な判断力と行動力。顔もいいし強いし頼りになる。
 セシリアはロジャーの記憶などそっちのけで、ロビンの腕に抱かれる自分を夢想した。

――まさにハーレクインの世界ね!

 サイキッカーのセシリアならロビンを上手くサポートできるから、コンビを組む上で相性もいいだろう。
 自警活動に興味はないが、ロビンをネルガルに引き入れれば最強カップルの誕生だ。

『あいにく筆おろしはしてやれねぇが、代わりに足でイカせてやるよ』

 空想に夢中になっているあいだに、Y21がクサリフを気絶させていた。なにか下品な言葉が聞こえた気もしたが、もはや大した問題ではない。

 この男はY21に負けた。そのY21には今仲間がいて、ゴッサムに住み着き自警活動をしている。

 それだけ解れば充分だ。あとはセシリアの力でなんとでもできる。
 面倒な仕事だと思っていたが、面白くなってきた。
 少女はあふれ出る笑みを隠しもせず、大男にかざしていた手を下げる。同時に彼女を取り巻いていた青い光と風も霧散し、ロジャーのうめき声も収まった。
 まだ頭を抱えている大男の横で、セシリアが嬉しげな声を上げる。
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DANGERHAPPY