Ivy

「天にまします我らの父よ
どうかお母さんの病気を治してください
国と力と栄えとは限り無く汝の物なればなり…」
アーメンと、言葉を紡ぎギュッとロザリオを握って一心に祈る
どうか…お母さんの病気を治してください

「お前今日も祈ってんのか」

声をかけられて振り向くとギルベルトがいた
ギルベルトはこの協会の修道士だ
私がお母さんの健康を祈りに来た常連なので互いに顔馴染みになった
「礼拝の途中だったか?
わりぃな」
全然心の籠っていない謝罪と共にドカリと隣に座ってきた
「お袋さんの容態はどうだ?」
「…少しずつ良くなってるよ
だから、今日は花でも摘もうかなって
寝たきりなんてつまらないしね」
ギルベルトは「そりゃいいな」なんて、返してくれるけどきっと私が嘘を吐いているなんてお見通しなんだろう
お母さんは日に日に痩せ干そってどんどん青白くなっていく
いつか空気に溶けてしまうんじゃないかってくらいに
薬なんて高価なもの私には買えない
だから、こうやって必死に神に祈るのだ
願いが届かないのが分かっていても
「ギルベルト…ありがとね」
「どうしたんだよ、急に
お前がありがとうなんて気持ち悪ぃ」
「人の感謝の気持ちくらい素直に受けとってよ
じゃあ、そろそろ行くね」
ガタリと、立ち上がるとギルベルトも一緒に立ち上がる
「おー、気を付けろよ
あと、森には入んなよ」
オオカミがいるからなと、悪戯っぽく笑らった
「赤ずきんじゃあるまいし、オオカミが出たら逆に捕まえて見せるわ」
こちらも悪戯っぽく返す
「人の忠告位素直に聞けよ…」
お互いにクスクス笑って「じゃあね」「またな」なんて言って別れる
いつもの風景

この時の彼の忠告を聞いていれば私の日常は守られていたかもしれない