嘲笑に似た声が耳に残る。ベーテン城内部は冷たいなにかが根を張っているようで、あまり長居する場所ではないと思っているが、保護観察という名目で城へ匿われた少年の担当をわたしではなく、シュメルツェン街の担当のアルデンホフ中尉だと言い放った上司に苛立ちを隠せずにいた。

「ーー思っていたより時間がかかったんだな」
「まあな。なにかと張り合ってくるアルデンホフ中尉がうまく話を通していなかったようだ」
「ふうん。その威勢ばかりの中尉殿に、担当を取られるとは思ってなかったと」
「……それで? 少年がいる部屋の鍵は手に入れたんだろうな」

諜報員としてベーテン城に身を置いているクルトに手のひらを突き立てれば、苦笑を浮かべながら内ポケットから錠前を取り出した。

「わたしは、鍵がほしいんだ。錠前じゃあ開かないだろ」

地下に幽閉されているので魔女が意識を絶った。恐らく、心臓が生きているからだ。どちらかが共存を拒否すれば、契約主でもある魔女の方に悪影響が出るのだろう。ぐったりとした様子で錠に繋がれたままーー少年も同様に、幽閉され続ける。

「……なんだ、なにが言いたい」
「お前は本当にせっかちだな。これが鍵だと言い張れば、これは鍵なんだ」
「……あの塔にいるのか。あそこは申請がいるだろ」
「なにを仰る。ダンツィ少佐にもなれば、顔パスも同然」

中性的な顔を気にしてか、顎髭を生やし始めたクルトは顎に指をかけ、わたしを見つめる。

三角形をなぞるように三つの塔がベーテン城を取り囲んでいるが、その内一つは書庫として今もまだ使われている。もう一つは倉庫のように古い物がたくさんしまわれている。そして、最後の一つに少年がいるらしいが、そこはアヒム第一王子が書斎代わりかなにかに使っていた塔らしく、当時の物がいくつか置いたあるままで。勝手に持ち出しや閲覧をしないよう、本来は国王の許可が必要になる。

「……第一王子は公務でいないんだったな」
「ああ。兵士はお前の直属の奴だったはずた」

「わたしの部下が? 見張りにされてるのか」そのことに疑問を抱かなかった訳ではない。





分からない儘でいたい



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