三日目はさすがに起きられなかった。
腰が痛すぎて、水を飲むだけで精一杯で。

男も疲れたのか、抱き抱えるように眠っていて、あまりにも幸せな錯覚をしてしまう。
幸せを感じれば感じるほど、いつか壊れた時につらいだけなのに。

代替えのきく愛玩で。
犯されるだけの存在だって、頭では。

胸に顔を埋めると、海の香り。
少し舐めると、塩っ辛い。

頭蓋の中で、声がする。


「役立たず」


腕から出ようと身じろぐと、きゅ、と抱きしめ直される。胸が潰れる。苦しい。

「逃げんなよ」

男の低い声が、とろけるような気持ちにさせる。なんでそんなに、甘い声で言うの。どうして。

差し込む朝日が白白と天窓から差し込み、まるで彫刻を見ているようだと、薄いシアンの壁にかこまれた中で青い肌に目を奪われる。

ここはどこもかしこも水の色ばかり。


あ、と千代里は繋がったままの下腹部を見て赤面する。朝になってまた、硬くなっている。
どろり、と昨夜の名残が零れる。

「…服、着なきゃ」
「今さらだろ」

ぎゅー、とさらに痛いくらいに抱きすくめられ、恥ずかしさが加速する。
ためらいがちに腕をまわすと、ほんの少しだけ、男の口元が緩む。

心臓が、男の手のひらの中で捕まえられてしまったみたいに。
どく、どく、どく、どく、うるさい。

生きなきゃ、という本能だけでいっぱいいっぱいだったはずなのに、何か別のものが、胸を突き刺して、痛む。

だめ、帰れなくなる。

「どこに…?」


既に、記憶が朦朧とし出している。

プールで溺れる前のことが、よく、わからないーー
思い出そうとすると、耳の奥で機械音が同じテンポで聞こえてくる。
ざわめき。と、消毒液のにおい……


「どうした?」


音が遠のいていく。
ううん、と首を振る。かりそめの安心でもいい。錯覚だっていい。後でつらくなっても、今だけはこの甘さに浸かっていたい。

また、ゆるりと動き出す彼の動きに、絡みつくように身を委ねた。