朝日に照らされた肌に、青い刺青がよく映える。
パークの広場で幹部たちにお披露目をすると、その執心ぶりに少しだけざわついた。
「そんなに入れ込むほどソイツは名器なのか?」
「若返ったのはやはり夜の癒しのせいで?」
クロオビが千代里を睨みつける。チュウは対称的に、じっとりと刺青に視線を注ぐ。
クロオビは特に警戒心が強い。
そこが組織のバランスを取るための幹事にしているところでもある。
「英雄色を好むと言うだろう?まあ、こいつは名器っていうか、寝技は娼婦にも敵わねェし、機嫌を取るのが上手いんだよ」
「いけすかない女ですね」
間髪入れずに嫌味を言うクロオビを遮るように、まあまあ、と教育係に任命したハチが6本の手を揺らして制止に入ってくる。
「媚を売るのが得意なんだろ」
特に、その態度に対して怒りを持たないという姿勢を見せる。
突き放すような言い方で、半分は本音で。
そんなことはない。千代里は言いかけて、そうなのかもしれない…と言葉を飲み込んだ。
心の真ん中に、包丁をざくりと刺されるような痛み。
小さな自分が、静かに音を立てて壊れていく。
「アー口ンさん」
聴衆に背を向けて、主の冷たい目を覗く。
「あたし、刺青が落ち着くまでずっと動けなかったし、海で泳ぎたい」
「ンン?」
唐突なワガママに、幹部衆が息を飲んだのが感じられた。
「拗ねたのか?」
そう、かもしれない。
あるいは、男に染まりつつある自分に嫌気がさしたのかも。
「泳ぐのが上手いらしいな。逃げられても困るんだよなァ」
わざと見せつけるように、足の指で、刺青をなぞってくる。
「あたしは、逃げない」
「逃げない理由がどこにある」
冷たく切り裂くような視線に、喉で反論が引っかかる。
どこに、逃げろというのーー?
「アー口ンさん、そいつは自分がどこから来たのかもわからないんですよ」
ハチが助け舟を出す。
唯一、この海賊団で、いわゆる"良心"をもつ男だ。
「生き延びるためのウソかもしれないだろ?なァ?」
ぎゅ、と手を握りしめる。
貶められていることに、惨めで悲しくなる。
「信じて、ください」
思い出そうとすると、頭が鉛のように重くなる。
それでも、何故か泳がなければならないと、強迫観念のように胸が急く。
「…逃げられないように、俺が陸から離れた海域まで連れていく」
浮ついた、からかおうという声音から、静かな声音に変わった。
誰も反論はしなかった。
「でも、仕事が」
「仕事をしねェために部下がいるんだろ?」
信頼しているからな、と、彼は大きく笑い声を上げた。
*
海面の上で、抱き上げられる。
一面なにもない、真っ青な世界だ。
太陽だけがギラギラと二人を見下ろしている。
「はなして、泳げない」
「まァ、急ぐなよ」
抵抗する肩にかけられた手を引っ張り、抱きしめたまま海の底へ潜る。
水圧で気絶しない程度に、ゆるやかに下へ下へと。
言葉を失った千代里が苦しそうに睨んでくる。
「息が止まるまでここにいようか」
凶悪な笑顔でそう言うと、器用に腕を抜けて千代里が水をかき分けて逃げていく。
「俺から逃げられると思うなよ!」
確かに、泳ぎはまるで水の中の生き物のように、美しい。
なのに血を流して食われる寸前のような、ぎこちなさもある。
海面に近づくところで足を引っ張り、水の底にまた沈める。
数分繰り返すと、さすがに苦しそうに首へすがりついてくる。
やはり、水の中の生き物ではないのだな、と少しだけ残念な、なんとも言えない気持ちになる。
「良い顔だ」
キスをして息を助ける。苦しそうに歪んだ顔がすっと楽になる。
水着からのびる足の刺青をなぞると、くすぐったそうに身をよじる。
つい嗜虐心をそそられて、千代里を海藻で水の底にしばりつける。
いつもよりも必死にキスをする千代里を半分脱がせ、こんなときでさえ濡れる身体を掻き混ぜる。
「千代里」
息を送りながら、何度も何度も名前を呼ぶ。
十分に濡れたところで、水の中でいつもよりも速く腰を打ち付けた。
ぼこぼこと千代里が息を吐き出す。
吐き出すたびにキスをして酸素を送る。
背中に爪を立ててくる。
チリチリと痛むほどに強く引っかかれ、苦しんでいるのを、心の底から可愛らしく思う。
「っく」
どっと数週間ためきった欲望が彼女の穴を埋める。
ずるりと抜くと、白い液が空気と一緒に溶け出してくる。
「…しまった」
ついうっかり酸素を送るのを忘れて、ぐったりと力が抜けた千代里を抱きしめ、海面に向かった。
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