夕方。事務作業にキリがついたところで、センパイに終業を告げられる。

「じゃ、今日はもう大丈夫だから、お疲れ」

まだ残って片付けをする背中に、お疲れ様でしたと声をかける。
気分転換に外へ出ると、新たな地区へ侵略をしかける幹部たちが帰ってくるところだった。

夕陽に照らされて、海賊旗がはためく。
血のような赤色の中に、黒い大きな船の影。

「おかえりなさい!」

遠くに聞こえるように叫ぶ。
無視をしたかったわけではないのに、気がつかず戻ったとき、その日の晩に躾と称して散々な目にあった。

着船するのを手伝うために港へ駆ける。
船からのびるロープを何人かの魚人が引っ張り、ゆっくりと船が桟橋の横へ移動していく。

ロープを固定する被覆石に縄がかかり、梯子が下される。

その梯子を待たずに、幹部は下に飛び降りてくるのだが。
ある種、彼らにとって梯子をかけるのは様式美な気もする。

「おう、帰ったぞ」

微かな鉄くさい匂い。
どこにも血は見られないが、恐らく交渉が決裂して、町がひとつ、消えたのだろう。

「数週間ぶりだな」

頭をぽんぽんと撫ぜられて、胸がきゅうっと苦しくなる。
あたし、この人に殺されても良いかもって、思うほど。

「だれも、怪我してない?」
「ん、してねェよ? まだ血の匂いがするか?」
「ならいい」

自ら彼の手をとって、頬ずりする。
甘えるのを許され始めてから、少しずつ、厚顔無恥になりつつある。

「おい、女。お疲れなんだから今夜はあんまり激しく求めるなよ」

ク口オビがニヤリと笑って、パークへ帰っていく。
チュウは逆に、久々なんだから燃え上がれば、とアー口ンの肩を叩く。

「オメェら、いい加減にしろよ」

個室の一件以来、あまりにも風紀が乱れるのはいかがなものかということで、野外はなくなったが、オープンだったはずの関係がさらにオープンになったようだった。
あまり咎めない彼に、まだ必要とはされているんだな、と改めて実感する。


「久しぶりだから加減が効かないと思うが……壊れんなよ」


猫をあやすように顎を撫ぜられる。
劣情の暗い光に満ちた視線が、身体中をまさぐって、体温を上げる。
変態だろうと何であろうと、もうどうでもいい。このひとが、欲しくて欲しくて仕方ない。


「いっそ、こわして」


ニヤリと、凶悪な顔で男は微笑む。


「その言葉、必ず後悔させてやる」