イチバンにはいつもあともう少しで届かない。
誰よりも何よりも頑張っているはずなのに。
*
外は太陽に燦燦と照らされているのに、男の自室はヒヤリと暗かった。
石の冷たさが部屋の空気に充満し、まるでこれからの火照りを抑えようとしているかのようだった。
憎たらしいまでに真っ白で無機質なシーツの上に投げ出され、防衛本能で疼くお腹の奥を抑えるように、少女は縮こまる。
タイヘンなことになってしまった。
こんなことになるとは思ってもいなかった。
「機嫌を取れれば、まあ、痛くはしないでやらないこともない」
男は偉そうに、バサリとシャツを脱ぎ捨てて、ベッドへ腰掛けてくる。
この性分だ。恐らく今日は機嫌が良いとかで、大目に見られているのではないだろうか。
「…あたし、その」
どうしよう。
何を言って機嫌を損ねて殺されるかわかったものではない。
「あたし、初めてなんです」
だがしかし、だとしたらこそ、マイナスの情報は先んじて開示しておくに越したことはない気がする。
この男の機嫌が良いうちに。
「ふん。だから何だ?」
ニヤニヤと、嗤う男の口はまだ余裕がある。
「わ、からないん、です」
顔をあわせられない。弱々しく訴えたところで、何ひとつ状況は改善されそうにない。
声が震える。
「ひぁっ!」
冷たい指先が首筋をなぞって、背筋をたどる。
「だったら、どうする?何もせずに乱暴されたいか?」
「教えてください」
耐えられない。
いつでも捻り潰せる残酷さが、生優しい声音の中に不穏な響きを含ませる。
呼吸が荒くなる。
ああ、ああ、死にたくない。
「こっちを向け」
一層低い声は、まるで誰も抵抗できないような圧力で。
無言で強張った身体をほどきながら腕を支えにして振り向けば、まだ面白そうに嗤う男に安心する。
「そう、良い子だ。小さい口だな」
親指を突っ込まれる。
冷たくて海の磯臭さが脳髄を刺激する。わけもわからず、舌を這わせると、男がギザギザの歯を見せて満足げに頷いた。
「入らねえだろうなあ、」
そびえ立つ凶器。まさしく。
男の下半身に嫌でも目がいく。
唐突に、ガラスが砕け散るような感覚が走る。
強烈にモノ扱いをされていることを自覚する。
男の目線が父親とかぶる。
振り上げられる手と、甲高い肌を叩きつける乾いた音。
「この、出来損ない!」
溺れる記憶に呪いの言葉が、頭の中でグラグラと揺れる。
揺れるたびに、
ぼろぼろと涙が落ちる。
「ご、ごめんなさ、」
「なんだ、怖気づいたのか?」
明らかに冷めた空気が流れる。
泣き叫べばきっと喚き散らす家畜を鞭で打ち付けるような扱いをされるのではないかと、即座に最悪の未来がよぎる。
すっと抜かれた親指を舌が追いかけるように言葉を吐き出す。
「そうじゃ、なくて、」
あまりに、
あまりに甘い声音が。
「良い子って、すごく、久しぶりに」
聞いたんです。
私がまるで喜ばされたような言葉じゃないか、と少女はうすら寒く自分を呪った。なんて醜い自己保身。
男は小さく声を上げて笑った。
「これから犯される人間の言葉とは思えねェな。ま、せいぜい優しくしてやろうじゃねえか」
観念したようにズボンを脱ぎ捨てて、男は少女の水着の肩紐に手をかけた。
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