全身、鞭打ち。アザだらけ。
事務ごとは1週間休むようにと通達された。

午前10時。
暖かい空気が昼と混じり合う時間。
プールサイドの椅子にゴロンと教育係りのはっちゃんと、二人で並んで横になる。

「こりゃあ…酷いもんだな」

朝、寝ているのも良くないからと、普段はお昼か夕方に聞くアー口ン一味の歴史講座を、午前に時間を変えてもらったのだった。

「ここまでする気持ちも、分からなくもないが」
「どういうこと?」

あっしまった、という顔をする。
ツメの甘さがありがたい。

「はぁ、仕方ねえか。アー口ンさんも普段より執心気味のようだしなァ」
「そうなの?」
「あーそりゃ、金目当てでくる女もいるし、人を買うのは造作もねえからな。資金のムダだってあんまりそういう女に手は出さねえけど」
「…あたしみたいな子、それなりにいたんだよね」
「そりゃあ、いたさ。でも持って1週間。キレやすいから、みんな、すぐ機嫌損ねて殺されるんだ」
「あたし…運がよかったんだ」
「お前、ちょっと変わってるからなあ」
「どういうこと」
「まあ、褒めるというか…どっちかっつーと、良くも悪くもねえんだが、お前、ちょっと天然だろ? どっかしら、コイツは裏切らないってオーラが出てんだよ」
「……それで、アー口ンさんが、暴力的なのは、何の理由があってなの?」

ふう。長い口から大きなため息を出して、ハチが暗い顔をする。

「どっから話せばいいか、」
「始めから全部」
「おめっ分からねーから言えるんだぞ」

ムキー!と暗い顔を赤くして、百面相。またズーンと、落ち込む。

「俺たちには昔、英雄がいたのさ」

長い話だった。
魚人島のこと、差別のこと。

頭の太陽を指差して、ハチは昔のことを教えてくれた。

支配の手前、あまり過去には触れたくないのだろう。
粘り強く今日、この時を待ってきた甲斐があった。

「それだけが今の一味になった理由じゃねえけど、決め手になったのは、その人の死だったなあ」
「……ひどい」
「アー口ンさん、怒り狂って、手がつけらんなかった」

時に、過去はその人を理解するのを阻害する。
しかしまた、知ることで得られることもある。

「だから、お前に強く当たるのは、何となく分かる気がするんだ」
「なんだ、ついにアー口ンさんの機嫌でも損ねたのか」

クロオビがのほほんと並ぶ二人の姿を見て、足を止める。
千代里の痛ましい怪我に気がつくと、怪訝な顔をする。

「まるでレイプ後だな」
「いつもそうだと思うぞ」

ハチが微妙なツッコミを入れる。

「機嫌は損ねてない、と思う」
「オメデタイ頭だな。身体を見て言え。そのくらいで済んだから良いものを」

クロオビが吐き棄てるように冷笑する。

「だって、アー口ンさん、優しいもん」
「優しいの基準値がおかしいんじゃないか?」
「おかしくないよ!ね、はっちゃん」
「俺にはなんとも…」
「おかしくないなら、例を言ってみろよ」

う、と千代里が言い淀む。

「…それは、」
「ほら、すぐ出てこないじゃないか」
「口には出せない内容だったの!」
「へえ、どうせ筒抜けだ言ってみろよ。毎晩毎晩お盛んな声がうるさく聞こえて仕方ないぜ」
「…っ嘘」
「ほお、恥じらうくらいの羞恥心を持ち合わせていたとはね」
「その辺にしてやれよ。アー口ンさんじゃ、しょうがないだろ」
「ハチ。それはどういう意味だ」
「あれは、あの人だから、出来るの!」

しん。
一間、静まる。

「…今度、オンナを洗脳するにはどうしたら良いか聞かなきゃいかんな」
「洗脳なんかされてない。ちゃんと、あたしは」

かあっと、勢いで出た言葉に、頬を真っ赤にして千代里が俯向く。

「…好きなのか?」

ハチが泥舟の助け舟を出す。

「じゃなきゃ、あんな恥ずかしいことしない」

くそっ。舌打ちして椅子の上で体育館座りをして膝に顔を埋める。
なんで公開告白を本人がいないところでするハメに……

「好きなんだよ。殺されたいくらい」

ああ、とハチが嘆息する。
クロオビは思わぬ気の狂った純情告白に絶句したまま、かける言葉を見失っている。

「おめーら、何ペットの周りに集まってんだよ」

チュウが通りがけに絡んでくる。

「…いま、こいつが」
「言わないで!」

言いかけたク口オビを制するが、公開告白のくだりがバレるのに、数分とかかることはなかった。