手続きを終えてベッドルームに戻ると、珍しく主が机に向かって何かを書いていた。
何枚も床に落ちる紙を拾う。海図だ。
たくさんのバツ印。
そして、散らばる報告書の一部には、海賊と海軍、村民の勢力図のレポートが、ぎっしりと埋められている。
広がる紙の海で、底なしの暗闇に堕ちていく感覚。
血の気がひいて、音が遠ざかる。
「ん…? 千代里か」
「お邪魔してしまって」
「いや、いい。終わったところだ」
仕事モードの顔つきから、すっと力の抜けた顔に戻る。
「なんて顔してる。そんなに痛えのか?」
「…うん。外。雨が降ってきて」
「そういやあ、冷えてきたな」
当たり前のように伸ばされる手。
祈るように、ふれる。
「そろそろ寝るか。今日はさすがに誰も飲まねえだろ」
「…飲んでましたよ、宴会隊長さん」
「ハッ、精が出るねェ」
繋がったこの手が、
どうか離れませんように。
*
翌日。嵐が去った空は晴れ晴れと青く、涼やかだ。
例のごとく広場にふんぞり返って鎮座して、アーロンは新たな海域を攻略する、と宣言した。
コノミ諸島の市町村を支配下におさめ、次なる大地へとコマを進めるのだ。
「今後は、新たな地への侵略に向けて準備だ。気ィ引き締めろ!!」
オオォォォォ!!!!
地鳴りのような鬨の声が上がる。
胸騒ぎが止まらない。
今後は頻繁に幹部が留守にすることが増えるだろう。
心配はしていない。
なのに。
胸騒ぎが止まらない。
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