ね、先生、

ーー私を呼ぶな。

先生、大丈夫?

ーー頭が痛い、割れる。

「ねえ、本当に大丈夫?」

珍しいこともあるのねと彼女は嘆息した。

「さっきから大丈夫だと言っているだろう」

苛々と返されても尚、彼女は食い下がらない。

「大丈夫じゃないですよ、それ」

ぐらりと倒れかかった長身を、全身で受け止める。

ーーああ

夏服のままの薄いワイシャツに、ブラジャーの紐が見える。

制汗剤の安っぽい、甘い香り。

息をするとお前のニオイが鼻腔を満たすから、頭が、あたまがーー




保健室までやっとのことで彼を連れてくると、ふうと少女は息を吐いた。

身体の水分を沸騰させるような真夏日に、しっかり布団をかぶる彼の周りだけは、真冬の凍りついた空気に包まれているかのようだった。

薬も飲ませてしまったし、もう何もしてあげられることはない。
帰っても許される、もとより罰されることもないが。

だけど、足が動かないでいる。

少し狭そうなベッドで、はみ出た足先に布団を掛け直す。
すると、弱々しい掠れた声で「すまないな」と聞こえた。

「良いんです、先生だから」

呟くようにぽつりと零して、何だか改めて恥ずかしくなる。

手先が冷える、と言うので、そっと片方の手を包み込んでみた。
氷のような手のひらへ、少女の熱がなだれ込む。

あたたかいな。

卑怯なくらい穏やかに微笑まれて、心臓が痛いほど踊り狂った。

私は、先生のことが好きだ。
先生も、私のことが好きだ。

だからといって、何かが始まるわけじゃない。


夏風邪は、治りにくいんですよ。
と言えば、
お前にうつせば早く治るな。
と言われた。

やましいことが頭を過ぎる。
と同時に、お断りです、と茶化してしまった。

訪れる沈黙。

窓の遠くで、運動場に走っていくクラスメイトたちが見える。
体育、着替え、間に合わないな。

す、と彼が目を閉じたのを見計らって、包んでいた手を絡め取って頬に寄せる。
熱い頬にひやりと心地よい冷気。

夏風邪、せいぜい長引けば良いのに。

何故かクーラーをつけなくてもからりと涼しい保健室の空気の中で、次の時限のチャイムを聞いた。