業火を燃やすは罪悪感
神様のお気に入り。
そう、称されるハーレムの侍女たちは、エネルにかしずき、そのご機嫌を存分に取るため、特権を与えられる。
四六時中、彼のそばで、彼のためだけに尽くすのだ。
ルビーがその役目を担うことで、私は生かされていたのだーー
***
「せいぜい、小綺麗にしろよ」
急に現れたかと思うと、男が鏡の前で嫌々化粧をするガーネットの肩を、皮肉が張り付いたような笑みを浮かべ、大きな手のひらで鎖骨にかけて撫でる。
ガーネットは取り繕う素ぶりも見せず、鏡越しに色素の薄い男の瞳を睨み返す。
暗殺失敗の翌日に、ハーレムに昇格した。
恐れられているこの男の側に召されることは、あまり喜ばれない。
なんなら、降格といっても間違いではないだろう。
胸のきわを、触れるか触れないかで撫でる刺激に、昨晩の痴態がフラッシュバックする。
震える腕を精神力で押さえ込み、なんでもないことのように、あくまで平静を装う。
「ああ、違う」
エネルは、そう呟くや否や、ガーネットのグロスを塗る腕を掴み上げた。
なにが? 問い返すよりも先に、
「ルビーは、そんな色の紅はひかない」
瞬間、頭が真っ白になる。
聞きたくない。知りたくも、ない。
激昂した自分の悲鳴とも怒号ともつかない絶叫が耳に届く。社じゅうを劈くような、獣じみた音だった。
「ぁあああぁああ!!」
無意識に身を翻して、ガーネットは男の首を掴み、押し倒していた。
「お前の姉は、従順だった。私の意に沿う以上に」
だが、すぐさま体制は逆転する。
また、神によって過激な躾がなされるのを悟る。からかわれたのだと気がつく。
なんて悪趣味で、タチの悪い、人を馬鹿にし切ったジョークだろう。
「…ッくそ!」
手首をひとまとめに地面に縫いとめられ、片手で服を一息に破られる。
あまりの怒りに、涙がこみ上げる。悪口が思いつかないくらいに、悔しい。
ああ、殺してやりたい!
「良いぞ。その目だ、」
急くように腰布を外して、見たくもない天を衝く男の象徴を、胸の谷間からヘソをたどって、ぬるぬると滑らされる。
気持ちが悪い。今の私の、どこに興奮する要素があっただろう。気持ち、悪いーー
「許さない、絶対!」
「私は別に貴様の許しなど求めんがな」
ずるずると下着をずり下げられながら、何とか逃げようと力を込めてもびくともしない。
見られたくない。それなのに、身体が先の展開を見越して嫌な熱を帯び出す。
「無駄なあがきを。まあそれも一興」
くちゅ…
乱暴に突っ込んだエネルの指に、温かい液体が絡みつく。静かな部屋に水音が響く。
ガーネットの目尻から、涙が溢れる。
なんで、どうして。
「これは」
神はより一層、下卑た笑いを浮かべる。
「躾けのしがいがあるペットだなァ」
「そん…なぁっ、や、ぁ、ああ、ぁ」
グチュ、グチゅ、
指が内壁を引っ掻きながら、ゆっくりとねっとりと抜き差しされる。
「ちがう、ゃ!ぁあっ、はぁっ、ちがうッ」
音が響いて、どうしようも濡れていくのが、逃れようのない事実として脳裏に刻まれる。
それでも絶対に触られたくない。抱かれたいなんてあり得ない。
首を振って否定し続ける。
「どう違うんだ?」
「…やめて、やだっ、やだぁ!」
ぴり、と刺激が少しずつ違うものを足されるのを感じる。
「ぁ、ああっ、!あああああ!だめぇ、だめっ、あ、あっ、…ッ」
舌が這う肌に、電流が流れる。
赤い舌先が、胸の頂を飴を舐めるように転がしては、ランダムにビリビリと刺激を押し付けてくる。
「ッく、」
唇を噛んで黙れば電圧を上げられる。悲鳴。頭で星がまたたく。
「…っ、ン!……っはあぁ、ん、…ッ」
快楽に堕ちていく。
感度が上がるにつれて、最適な速度で抽送を繰り返す男の指に、自分が絡みつくのが、吐き気がするほど気持ち悪い。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。
わざとらしいパフォーマンス。激しく音を立てて、痛くない限界で、私の中をかき回して行く。
「ーーーーッ!」
腰が揺れる。
逃げようと動いてるのか、自分から求めているのか、分からなくなる。
真っ白な地獄に、気を失うーー
***
意識が戻ってきたのは、いったい数分なのか数時間なのか。
いつの間にか入っているエネルのものを、男の上で踊るように、食い尽くすように、自分の腰が揺れている。
止めることができない。
「…この雌犬め」
この忌々しい神が果て、自分の中にその汚らわしい欲望を、何度も何度も吐き捨てていったことを、その瞬間に思い出した。
熱の塊が、また子宮に飛び出してくる。
「ぁあっ、あ、」
信じられないくらい、甘い甘い声を上げて、それを搾り取る自分に心底嫌気がさす。
ーーああ、もう、どうでもいい。
度を越した恍惚の中でそう思わされる。
その度に神への憎悪が深まっていく。
ずるり。
エネルの萎えきった男根が抜ける。
どさりと横に倒れこんで、立ち上がる男を横目で忌々しく追いかける。
「これでは、調教しがいがないじゃあないか!ヤハハハハ!」
男は虚ろに倒れ込んだうつ伏せのガーネットを蹴り起こし、仰向けに転がすと肺を押しつぶすように足で押さえつけた。
足の裏で、胸をグニグニと揉むように、形を変えて遊んでいる。
「…殺して、やる!」
頼りなく震える声。
つぶった目蓋の裏で、幼い日、抱きしめられた姉の優しい香りを思い出す。
もっともっと憎しみを。
そして、罪悪感を。
胸に宿ったどす黒い炎を燃やさなければ。
燃やし続けなければ。
「まだ口だけは達者なようだ」
その日初めてのキスを強制される。
貪る、という言葉がぴったりなほど、舌を絡め取られ、唇をはみ、嫌という程、口内を蹂躙される。
汚い男の唾液と、自分の口から漏れたそれが、だらりと2人の間をつないで落ちた。
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