憂鬱日-Blue day-


 教室の窓をなんとなく眺めていた。
「つまんないな……」
教室はいつもと変わらず雑音だらけ。廊下に出ると向こうの教室から出てくる人影。髪の長い……、女子が女子に追われてる。後ろで何かを叫ばれている。反響して上手く聞き取れない。待ってと呼び止めているのだけはなんとなく……だ。
そんな言葉に立ち止まることもなく、彼女は自分の横をすり抜けて行った。顔を真っ赤にしているのがなんとなくわかった。微かに竹のような香りが鼻孔掠めていった。
 追いかけてきた女子生徒たちの進行方向を妨害し、めんどくさそうに口を開く。
「ねぇ、いじめって楽しい?」
「え!」
追いかけてきた数人の女子生徒になんとなく問った。別に深い意味はない。
「わ、私たち別にいじめなんか……」
「でもさっきの子顔真っ赤にしてたし、何かしたんじゃないの?」
「ちょっと着替えてって頼んだだけだよ、泉希くんに」
(みずき、くん?)
「何で?」
「何でって、衣装の合わせみたいなもんだよ」
「部活か……。でも、彼女嫌だったんじゃないの?」
「は?」
「は?」
思わず女子生徒の反応に反応してしまった。
「いや、泉希くん……男の子です……」
「何で敬語なの?」
いきなりの敬語に困惑の表情を浮かべる。すぐに彼女の言葉に不信感を抱く。
(男? さっきのが?)
確かに一瞬だったし、ウィッグなんかを被ってたら、女子に見えなくもない。事実目の前の女子生徒が本当の事を言っているとも限らない。けれどこれで色々と面倒なことになっても困る。一応お節介で口を開いただけだったのでこの場を納めることにした。女子生徒たちは互いに目を合わせて何かを言っている。
「あー、もういいよ。引き留めてごめんね? でもいじめはやめておいた方がいいと思うよ? それが原因で……って、ニュース最近多いじゃない。だからよく考えた方がいいと思うよ」
微かに含んだ笑みを浮かべて階段を上がった。いつもそうだ。この笑みを浮かべると困った顔をして最後には怖がられる。自分が悪いことをしたっていう罪悪感でも出てくるのだろうか。

 階段を三周ほど上がると重いドアが現れる。
屋上へのドアなのだが、正直学校の屋上が何のためにあるのかわからない。大体の学校の屋上は鍵がかかっているか閉鎖されている。
生徒の立ち入りを許可しないのなら見栄を張って屋上なんてものを作らなければいい。それこそ経費の削減になって国のためにもなるのではないかと思う。
「ま、オレには関係ないけどね」
ドアを開けて屋上へ出た。学校という閉鎖的空間から解放された心地よさを一瞬だけ感じる。灰色の視界が開けて、真っ白で、目が慣れるとそこには広がる空や町並みが見渡せる。
屋上の淵に立ってそんな風景を眺めてる。風が丁度いい。
思わずため息が出る。
(死にたいな……)
「あ、別にオレ学校好きでもないしやめよ……。いや、普通は嫌いだから学校で自殺するのか? でもそれって後々怪談話になるわけだし……、嫌いならなおの事学校でなんか死なない方がいいか。地縛霊にでもなったら最悪だろ……。大嫌いな学校にずっと縛られるとか……」
ちらりと空を見上げた。いつもと変わらない空の色。でも人の目にはわからないような僅かな色の変化がきっとあるのだろう。昔に見た記憶の中の青空と違う青空の色だから……。ただの記憶の書き換え……そう言ってしまえばそれまでかもしれない。

 教室へ戻るとクラスメイトに取り囲まれた。
「ねえ、さっき屋上に居たよね」
「危ないよ、あんなところで何してたの?」
大半が女子だった。答えるのも面倒だったのだが答えずに無視をした所で答えを長引かせるだけだったので答えた。それに納得したような安心したような面持ちで周りは散らばっていった。
(ちょーうざい……。別にオレが何しようと勝手じゃん)
人との関わりが面倒になっていた。


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