この心は傷つきすぎる。
この環境に押しつぶされるように、敏感に、過敏に反応してしまう。
なんて救いのない。まるで奈落、地獄のようだ。

見えない傷痕、見えている傷痕。
どちらが多く負っているのだろうか?

見える傷は負った事すら忘れて、傷も癒え消えてゆく。
見えない傷は負った日を忘れてしまっても、その傷が消えることはない。
付き纏うのは負の感情か?
それを解き放つ術があるのか?

今の人間[われわれ]では、見つけられない[コタエ]だ。


かつて居たとされる、神の使者。
その聖痕を愛だと謳うのなら、我々が受けた傷痕[きず]は一体何だというのだ?
同じ下等な人間に受けたこの傷痕は、一体何と呼べようか……。

傷からは憎しみや憎悪、嫌悪の紫が羽ばたく。
その紫に耐えられなくなれば、向かうのは[]の断頭台だ。

 傷痕ひとつ、この世界全員が加害者で被害者。
 殺人者である。

この世界にまっさらな、傷痕だけを受けた真白な人間は、存在しない。



                  ―――『人間[われわれ]というものと傷痕の居所』1×××年


「これを書いたのはもう、随分と昔のことになる…。私も歳をとったものだ。
けれども悲しいことにこの時代は、今も変わらず、いや、昔よりも見えない傷痕を負う者が多いようだ。そしてこうしている私とて、善人でも真白な存在ではない」
 カララランと高々に鐘の音が鳴る。
「おや、誰か来たようだ。私は表に出なくてはいけないのでね、少し席を外す」
そう言って目の前の人物は椅子から腰を上げると微かに口角を上げた。
(人間ベースで書いたが我々は人間[やつら]とは違うがな……)

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