baroque Tea time Alice ××:××
時計は回る。
無情に廻る。どんなに願おうとも。
そんな時間を意のままに、さぁ今日も宴が、お茶会が……
幕を開ける。
長針が12を短針が3を指す。
目深にかぶった黒いシルクハットの唾部分に、たくさんの薔薇の花が敷き詰められている。
その者の表情は見えない。男なのか、女なのか。
「今宵もお茶会を楽しもう」
そう静かに声をあげるそれは低く、心地の良いものだった。
「オレあまり
紅茶[は好きじゃない」
「じゃあ、何ならいいんだ?」
「……
紅茶[ルフナー]」
「ほう、
紅茶[ルフナー]か。それなら、似た
紅茶[アッサム]がある」
ポットを差し出すシルクハットの男。それを睨み付けるように見ては、自分のティーカップを差し出す。
心地の良い水音と水温、香りが広がる。
「お前は一体何を飲んでいる?」
「? 私か、私はキミと違って何でも飲むがね。今は
薔薇紅茶[ローズキャンディ]を……」
「またそれか、オレたちには
紅茶[ヌワラエリヤ]を出してお前は
紅茶[キャンディ]とかどういうことだ!」
「あ、また喧嘩してる」
トコトコと急いだ様子もなくやって来た小さな三角耳を生やした少女のような顔立ちの少年。
「ずいぶん遅かったな、またこいつに説教食らうぞ?」
「ヴィードは黙ってて、ぼくだって色々用事があるんだから。
――ごめんなさい、ナディー。お茶会に遅れたのは
淑女[ミラ]が中々ぼくの言う事を聞いてくれなかったからなんだ。ぼくは少しでいいから
生命[ち]をくれと言ったのに拒んできたから」
「……エドガー、その名で私を呼ぶな」
「……っ。ごめんなさい、ナディル・サングリア。
だから、ぼく喉がカラカラなんだ。血じゃなくてもいいから僕にもお茶をおくれよ」
そう言いながら席に着く。目の前のティーカップをひっくり返して品定めをする。
「……血ではないが、この
紅茶[ハーブティー]を勧めよう」
そう言って席を立つナディル、緑色を基調としたアンティークのポットをエドガーのティーカップへと傾ける。
真っ赤な、それは血のように赤い紅茶だった。
「わぁ、いい香りだなぁ。いい
調合[ブレンド]だね」
酸味の強い紅茶だ。こういうのは一概とは言えないが、どちらかと言えば女の方が好みだ。
「
薔薇[ローズ]に
南国花[ハイビスカス]、
耐寒白花[カモミール]、
薔薇の固蕾[ローズヒップ]、
魔女の宝石[りんご]だ。出来れば薔薇多め、魔女の宝石多めがいいな。出来たらあまーい蜜も欲しい」
そう言いながらその紅茶を飲み干すエドガー。
「今日はぼく達だけか」
「その内来るだろう」
「我らの
聖者[アリス]が」
「お茶会は決まった時間にするのだから」
「毎日毎日3時にお茶会して、どうするのかと思ってたが。やっぱりアリス待ちか」
「いいじゃん、きっとアリスならこの血のように赤い紅茶気に入ってくれるよ」
「その前に、
聖者[アリス]には優しき絶望の蒼い紅茶を飲んでもらわねばならない」
「そして、赤き紅茶を飲ませれば」
「「「
聖者[アリス]はもう我らのモノ」」」
時計の針は……長針が12で短針が9を指したまま壊れ、鏡に映り込む。
屈折した世界に――、
奇妙なお茶会は今日もあの場所で幕を開けている。
赤く発光した目を宿しながら、待ち続ける
聖者[アリス]。
この者達の正体は……
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